2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年10月6日

 解説記事は、ヒズボラが、レバノンでのIS駆逐で、政治的影響力を一層増したにもかかわらず、レバノンの政治で直接支配力を行使することはしないだろう、と分析しています。その通りでしょう。

 ヒズボラは、レバノン内戦へのイスラエル軍の侵攻を受けて1982年に結成されましたが、当初から単なる武装組織ではなく、政治組織でもありました。社会開発計画を策定、実施し、自らのラジオ・テレビ局を持ち、選挙に参加してレバノン議会に議席を持っています。2008年の挙国一致内閣に参加し、今でも閣僚がいます。いわば、レバノン社会のエスタブリッシュメントの一部なのです。

 その政治力は大きく、これまでも実際に政策を決めているのはヒズボラであると言われているほどです。それが今回のIS駆逐で政治力が一層高まり、レバノンの政治を直接支配してもおかしくないのですが、それはしないでしょう。解説記事の言う通り、レバノンの政治ではコンセンサスが重要だからです。特に、ヒズボラは当初からレバノンのキリスト教運動と協力関係にあり、この協力関係を維持する必要があります。

 米国との関係にとっても、いわば低姿勢をとることが必要となるでしょう。トランプはヒズボラを厳しく批判しています。ヒズボラがイスラエル抹殺を宣言しており、イスラエルが厳しく批判していることもあり、このトランプの姿勢は変わらないでしょう。ヒズボラとしても、そのトランプを刺激することは避けたいところではないかと考えられます。

 ヒズボラの低姿勢は、ヒズボラの軍事的・財政的支援者であるイランにとっても好都合でしょう。ヒズボラはイランが産み、育てたものです。ヒズボラの指導部はホメイニの薫陶を受け、その部隊はイランの革命防衛隊が訓練、組織しました。ヒズボラ、そしてヒズボラが実質上支配するレバノンは、イランの中東政策の要の一つである「シーア派の三日月地帯」の重要拠点です。そのレバノンが政治的に不安定になることはイランとして望まないでしょう。

 ヒズボラは、イランの指導の下、シリア内戦にも介入し、アサド政権を支えてきました。他方、イスラエルはヒズボラを脅威と見なし、いざとなれば軍事行使も取りかねません。今後の中東情勢の中で、ヒズボラから目が離すことはできません。


  
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