ジョージ・ワシントン大学のマクサッド准教授と米国のシンクタンクAEIのポラック客員研究員が、Foreign Affairs誌のウェブサイトに8月21日付けで掲載された論説において、サウジとイラクの関係改善は、米国とイラクにとっていい知らせである、と述べています。論説の要旨は以下の通りです。
サウジとイラクの関係改善は永らく待たれていたもので、中東に関する最近にない朗報である。
まず2月にサウジのジュベイル外相が、1990年以来となるバグダッド訪問を行い、その後イラクのアラジ内相がサウジのムハンマド皇太子と会った。
最も注目されるのは、7月31日にイラクの扇動的な聖職者、ムクタダ・アル・サドルがリヤドを訪問し、イラクとサウジの関係改善につき、ハイレベルの会談をしたことである。
サドルはサダム・フセイン以降一貫してイランの重要な同盟者であった。彼の民兵はイランの革命防衛隊から広範な支持を受けている。
それだけにサドルが、イランの宿敵サウジを訪問したことは驚きであった。
一連の会合は、サウジが戦争で荒廃したイラクを支援し、両国間の通商、コミュニケーションを促進し、またイラン・イラク戦争中に建設され、1990年のサダムのクウェート侵攻で閉鎖されたイラクからサウジ経由紅海に至る巨大パイプラインを再開する可能性を高めた。
米国(それにイラク)から見れば、これはいい知らせである。
サウジのイラクとの関係改善は、宗派間の対立を乗り越えるという政治的に機微な課題への取り組みを示唆している。
イラクはサウジの政策変更の主たる受益者であり、IS敗退後のイラク安定を図る米国にとって大きな助けとなる。
サウジがアンバール県のスンニ派指導者や部族に影響力を持てば、イラクの政治的解決を助けるだろう。
サウジのイラクとの関係改善は、両国関係を超えて、イラクをアラブ世界に引き戻すうえで重要である。
サドルはサウジ皇太子との歴史的会合の後ア首連に招待された。ア首連のガルガシュ外相は、イラクと湾岸アラブ諸国との間の関与の新時代を発表した。
それに続き、今月アラブ4か国の外相がバグダッドを訪問した。
この動きは政治、心理の両面で重要である。
イラクのシーア派の多くは、誰もイラクを支援しないとき、イランが助けてくれると信じているが、イランの圧倒的影響力は好まず、その減少を望んでいる。
しかし、これまでは、イランに代わって米国やアラブスンニ派諸国が支援してくれることはなく、結局イランに頼らざるを得なかった。
イラクのスンニ派は、サウジの前向きな姿勢によってバグダッドのシーア派に、自信を持って対処できるようになるだろう。強力な隣国の支持を得て、妥協がしやすくなるだろう。
イラクはしかしながら、サウジの属国となることも望まない。イラクにとって、サウジとイランの次の代理戦争の戦場となることは悪夢である。
イラクは外交政策のバランスを回復するため、地域の今一つの強国に依存できることを強く望むだろう。
イラクの国民は、2018年の議会選挙を控えてのサウジとの関係改善により、国を分裂させる過激派ではなく、宗教対立を緩和させるような穏健派の候補者を支持しやすくなる。
ただ、サウジとイラクとの関係改善が重要であると言っても、サウジは米国にとって代われない。
サウジの支援の意義は、米国が米国だけができることを実行しやすくすることにある。米国だけができることとは、スンニ派とシーア派が国家的融合と権力分担に合意するようにすること、イラクのクルド人の地位を恒久的に解決すること、そしてイランの過度の影響を薄めること、である。
出典:Firas Maksad & Kenneth M. Pollack(Foreign Affairs, August 21, 2017)
https://www.foreignaffairs.com/articles/middle-east/2017-08-21/how-saudi-arabia-stepping-iraq