2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年10月5日

 ハドソン研究所のミードが日本の核保有は米国のアジアからの撤退とアジアの不安定化を意味する、アジアの不安定化のリスクを取るか、北朝鮮との危険な戦争のリスクを取るか、トランプ政権は戦略ジレンマに嵌っていると9月4日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙で述べています。主要点は次の通りです。

(iStock.com/JuliarStudio/Chad Baker/d1sk)

 北朝鮮問題は、周辺国や米本土への脅威という問題だけでなく、米国の東アジアにおけるプレゼンスの根幹に挑戦するものである。金正恩は米国に選択を突き付けている。専門家は北朝鮮の核開発は日本の核保有を誘発すると理解してきた。そうなれば韓国と台湾が続くであろう(台湾は日本から静かな支援を受けるだろう)。

 日本のエリート達は核オプション賛成に向かっているように見える。保守的ナショナリスト達は核保有により日本は独立した大国に復帰できると考えている。北朝鮮の脅威は、米国の防衛コミットメントの信頼性に対する疑念と相俟って、考えられないことを考える国民を増やしている。

 北朝鮮を止める努力に中国を引き入れようとする考えはこれらの前提に基づくものである。日本と台湾の核保有阻止は中国の利益である筈だとの理屈である。一部の中国の専門家は米国のアジア・プレゼンスは中国の利益を増進すると理解しているが、他の者は、中国は寧ろ米国のプレゼンス削減に焦点を当てるべきだと考えている。

 金正恩阻止の支援につきロシアを当てにすべきではない(ロシアは北朝鮮危機から利益を得ている)。ロシアは日本の台頭は米国の影響力を縮小させ、国際関係の多極化をもたらし、中国をけん制することになるので、日本の核保有を気にはしないだろう。更にその場合、中国と日本はロシアの歓心を得るべく競争するから、ロシアの影響力は増大する。

 トランプ政権の意見は分かれている。大統領側近等は太平洋での現状維持が米国の利益にとり最善であると考えている。他方、トランプ等は、東アジアの核化は米国の外交の敗北ではなく勝利だと考えているかもしれない。中国の野望は日本、韓国、恐らく台湾の核保有により封じ込められる。そうなれば米国は朝鮮半島から撤退し中国封じ込めのコストを同盟国に帰すことが出来る。現状維持のシナリオでは、米国は中国抑制のコストの大部分を払い続け、北朝鮮などとの戦争リスクに直面し続ける。

 しかし米国が東アジアで横に退くことは米国の戦後の戦略からの明確な離脱を意味する。米国は海洋の自由等「国際公共財」を提供し、平和を守ってきた。

 米国の撤退は太平洋の平和な発展よりも軍拡競争と軍事対立の激化をもたらす可能性が高い。南シナ海での中国の野望は日本が依存する貿易ルートの安全を脅かすだろう。北朝鮮は核・ミサイルの強化を続けるだろう。

 北朝鮮危機は米国に対して二つの極めて望ましくない対案を突き付ける。70年来の国家戦略を捨てアジアの不安定化のリスクを取るか、もう一つは北朝鮮との危険な戦争のリスクを取るかということである。トランプ政権は避けられない戦略ジレンマに嵌っている。金正恩政権は米国を窮地に追い込んでいる。我々はトランプが、歴代政権が失敗してきたこの問題に成功することを願わねばならない。

出 典:Walter Russell Mead ‘Does Trump Want a Nuclear Japan?’ (Wall Street Journal, September 4, 2017)
https://www.wsj.com/articles/does-trump-want-a-nuclear-japan-1504549899


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