─―日本メーカーの経営層に足りない点はどこにあるでしょうか。
久夛良木:今の経営層は、キャリアの中でそれなりの業績を上げた人なのかもしれないけれど、自社でやってきたことしか見えていない人が多いと感じる。自社の枠組みを超えて、世の中をどう変えようかという視点が欠けている。
PSを発売して7年後の2001年には、次世代機のPS2も出だし絶好調で、事業全体の売り上げが1兆円を超えた。この頃、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)の東証上場が内部で密かに検討された。上場時の企業価値は1兆円をはるかに超えることも予想され、世界で前例のない日本が誇る巨大スタートアップ誕生の嚆矢(こうし)となるはずだった。
しかし、当時の親会社のCEOがこの計画にストップをかけ、逆にSCEをソニーに取り込むことを決断する。これは僕らにとってだけでなく、その後の日本にとっても不幸だったと思う。上場していたら、SCEがシリコンバレーのIT企業群や中国のテンセントのような存在になっていたかもしれない。
坂本:この上場が達成していれば、久夛良木さんに続こうという起業のムーブメントが起きたかもしれない。日本には、そういうシンボリックな存在がなかなか出てこない。多くの企業では、ある時期までは横並び昇進が当たり前で、若い頃から大きな決断を迫られるような経験は少なく、「経営」を任せられるのは50代半ばになってからだ。
これでは、実践的な知識を身につけ、移り変わりの早いサイクルの中で、都度有効なマネジメントの舵取りができるようになることは困難だ。実力主義のもと、40代定年制を敷くなど、才能あふれる若い従業員が力を発揮できる組織にすることが重要だ。
こうした話をすると日本では反発を招くかもしれないが、年功序列で上位ポストに上り詰めた高齢者が経営しているような組織はいずれ崩壊し、大量のリストラが発生することになる。長期的に見れば損害は大きくなるだろう。
久夛良木:確かに日本企業はシンボリックな存在が生まれにくい環境だと感じている。特に、大企業では新入社員が1年も経たずにその会社の色に染まることが多い。画期的な製品やサービスを開発するような思いや意欲が衰え、自身の成長も止まってしまいがちだ。ここではもはや自分のやりたいことができないと確信したら、すぐにスピンアウトして新たに会社を興すくらいの気力が必要だ。
――日本では、ベンチャー企業がなかなか育たないといわれています。
久夛良木:最近では、AIやIoTを始めとする有望なベンチャー群が日本でもどんどん生まれており、VCや大企業などから成長資金も入り始めている。2、3年も経てば、ユニコーン企業(企業評価額が10億ドル以上の非上場ベンチャー企業)が続々出るのではないかと期待している。
坂本:そうした資金支援の他にも、自分で仕事をデザインして何かを変えていったような経験のある人に、取締役会やエンジェルファンドなどで色々な助言、提案をしたり、人と人を引き合わせる仕組みをつくったりするような役割を担ってもらいたい。