2024年12月7日(土)

坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2017年9月25日

 昨年、台湾の鴻海(ほんはい)精密工業に買収されたシャープは業績が劇的に改善し、2018年3月期の業績予想では4年ぶりの黒字化を見込み、復活が期待されている。だが、本当の復活までの道のりはまだ長い。

(iStock.com/Design Pics)
 

 シャープは、16年度の営業利益が前年比で約2240億円増加している。売上原価と販管費の合計額が6000億円以上減少し、売上高の減少幅を上回った。つまり、この営業利益増は劇的なコスト削減によるものだ。

 これは鴻海の傘下に入った効果だ。同社では100万円を超える案件は全て社長が決裁するなど、徹底的にコスト削減が行われている。台湾企業ではコスト削減が達成できなければ工場長は即クビ、というくらいコストに厳しい。

 特に経営陣からプレッシャーをかけられるのが、仕入れ価格が直接コストに影響する購買部門。ある装置を調達した後、次の装置を購入する際に、値が下がらなければ購入済みの装置の費用は支払わないといった日本ではあり得ないような話もよくある。

 他にも、シャープは大幅な人員削減を行い、設備投資削減で減価償却費を減らしている。こうしたコスト削減への厳しい姿勢、ノウハウは日本企業も学ぶ点があるだろう。

 さらに、鴻海はグループ内での損失移転を行い、シャープの業績に与える影響を減らしている。シャープは、鴻海と共同出資する堺ディスプレイプロダクト(SDP)から、製造コストに利益を加えたコストプラス価格でパネルを調達していたが、鴻海傘下となった後、その価格が大きく引き下げられたと見られる。

 また、SDPは16年度に約600億円もの損失が発生したが、鴻海がSDPを子会社化してシャープの出資比率を下げることで、シャープが被る損失を軽減させた。

 こうして、鴻海傘下でシャープの業績が改善したことは間違いないが、それは主にコスト削減による一時的な成果であり、シャープが長期的に存続していくためには製品価値を高める必要がある。

 そのためには製品開発部門にある程度の裁量を持たせるべきだろう。私は、iPhoneが登場する前からアップルの技術者と会っていたが、彼らはいつも「世のためになる製品を出せば必ず売れ、数の論理でコストが下がる。初めからコスト重視では画期的な製品は生まれない」と言っていた。魅力的な家電製品を続々と世に送り出していた頃のシャープは開発の自由度が高かったが、当時のような裁量を開発陣に与えるべきだ。

 鴻海はOEMビジネスで成功を収めており、コスト削減第一の考え方を変えるのは難しいが、シャープの開発部門を別会社とし、鴻海グループでコスト削減を図る仕組みにすれば、シャープの価値もさらに上がるのではないか。

 製品開発には、人員削減で失ったエンジニアの補充も必要だが、優秀なエンジニアはコスト削減第一の企業に魅力を感じないだろう。シャープの本当の復活はまだ先だ。

  
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◆Wedge2017年9月号より


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