2024年12月22日(日)

坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2017年8月21日

 多くの企業が6月末にかけて株主総会を開き、社長の就任や再任の決議が行われた。日本では社長の任期が短い企業が多いが、任期の長い企業の方が業績が良い傾向にあると思う。16年ぶりにCEOが交代する米GEのように、競争力のある海外企業はCEOの任期が長い。

 業界にもよるが、例えば半導体業界では社長が会社を改革するには少なくとも5年を要する。短い任期中に決算や株価の増減によって、社長の成果を測ることは難しいし、それが適切だとも思えない。

 私は、会社の実情を一番分かっている社員の声を社長の評価に反映することも重要だと考える。社員は自らの将来がかかっているため、社長が短期的な成果を求めたり、無難に任期を終えようと何も挑戦しなかったりすればすぐに分かる。社員が社長の進退を判断するのが、会社の未来にとって最良なことだと思う。

 私がエルピーダメモリの社長を務めたとき、当初の契約では3年という任期だった。しかし、任期終了が近づいた頃、マーケットの状況が悪くなり、役員たちから、もう少し残ってくれないかと頼まれた。私は、社員が私の再任を支持するのであれば、社長を続けると答え、さっそく社員代表による投票で社長の再任を判断する制度を導入した。

(iStock.com/Sentavio)

 具体的には、各職場から選ばれた15人ほどが約3700人の社員代表として人事部と議論し、私の再任を判断する。大事な点は、社員代表を非管理職の社員としたことだ。管理職の場合、会社の将来よりも自己のポジションを気にして、本質的な議論がされない可能性があるからだ。また、人事部の担当者も役職を課長以下とし、社員代表に近い立場にすることで、忌憚(きたん)のない意見が言えるようにした。

 もちろん、その会議に私は出ておらず、後になってもどのような議論が交わされたのか分からないようにした。

 もう一つ、社長の進退を考える上で重要な点がある。それは、社長自身が常に創造的なことを考え、付加価値を生み出し続けられているかを自ら正しく評価することだ。

 社長が付加価値を生み出すには、勉学はもちろんのこと、競争力のある企業のトップたちと会うなどして、最新かつ良質な情報をインプットし続ける必要がある。

 私は、1時間の打ち合わせのためだけに米国や中国に飛ぶことも当たり前だった。エヌビディア、ブロードコム、レノボ、鴻海など世界的に存在感のある企業のCEOと会い、情報を集めた。日本企業の社長と会うと、彼らはよく政治や景気の話をするが、そんな話は社長でなくても新聞を読めば分かることだ。

 私が会ってきた海外企業のCEOは、How are you?の後はすぐに仕事の重要な話をする。飲み会やゴルフでは本質的な話はできない。

 こうした方法で社長の進退を決めるのは、現実的じゃないと言う人もいるかもしれない。しかし、社長として自分の仕事に自信があれば、可能なことだと私は思う。
 

  
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◆Wedge2017年8月号より


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