2024年6月24日(月)

補講 北朝鮮入門

2017年10月2日

 安倍晋三首相は衆議院解散にあたって、北朝鮮の脅威という「国難」に言及した。ただ北朝鮮の核・ミサイル開発に反対しない政党があるとは思えず、日韓両国に多大な被害をもたらす軍事的解決を避けねばならないという点でも各党の考えは一致するだろう。それだけに選挙で争点になるとは考えづらいが、一方で総選挙の公示日である10月10日は北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党の創建72周年記念日である。

(写真:UPI/アフロ)

 北朝鮮は記念日に合わせてミサイル発射や核実験を行ってきたとして、衆院選の公示日前後にも何かするのではないかと警戒する声がある。ただし、それはあくまでも推測だ。実際には、ミサイル発射や核実験と北朝鮮国内の記念日に明確な因果関係を認めることは難しい。10月10日前後にミサイル発射があるかもしれないが、それが記念日と関連しているかは不明確なのである。

多すぎる北朝鮮の「記念日」

 米国の北朝鮮情報専門サイト「NK Pro」は9月の核実験直後、1990年以降に行われた75回のミサイル発射と6回の核実験について「主要な記念日」との関係を分析し、結果を公表した。主要な記念日とされたのは、金日成主席と金正日国防委員長の誕生日や建国、党創建、朝鮮人民軍創建、社会主義憲法制定、祖国解放戦争勝利(朝鮮戦争の休戦)、日本の植民地支配からの解放など13日だ。その結果、記念日に実験が行われたのは2016年の2回(ミサイル発射と核実験それぞれ1回)だけ。前日もしくは翌日が、ミサイル発射8回、核実験1回だった。

 核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射、日米韓が事実上の長距離弾道ミサイル発射実験とみなす「人工衛星打ち上げ」といった特別なケースについては、国威発揚や敵(日米韓)に対する嫌がらせという意図を読み取れることもある。最近は、中国で開かれる国際イベントに重なることも多く、中朝関係の悪化を反映している可能性もある。

 ただし、米国の建国記念日である今年7月4日にICBMを発射し、直後に北朝鮮自らが関連性を示唆したケースなどを除けば確たる証拠があるわけではない。8月29日に日本上空を通過した弾道ミサイル「火星12」の発射でも、北朝鮮は、1910年に日韓併合条約が「公布された血の8月29日」に触れたものの、同時に複数の理由を列挙している。

 NK Proは「(北朝鮮には)記念日が非常に多く、ミサイル発射、核実験の回数も多いため、意図していなくても何回かは記念日前後になってしまう」と評価している。分析に使われた13の記念日と前後1日ずつで計39日というのは、365日の10.7%になってしまうのだ。しかも、この分析では金正恩国務委員長関連の記念日が一切考慮されていない。金正恩氏の誕生日や軍最高司令官就任、共和国元帥称号授与、国務委員長就任などを記念日に加えれば、記念日の数はさらに増える。それに加えて米国の建国記念日や中国でのイベント開催日、韓国併合の日を考慮に入れるとどうなるか。9月3日の核実験では「建国記念日の6日前」などという解説まであったが、こうなってくると記念日関連で説明できない日の方が珍しくなる。

 日程については結局、周辺国による後付けの解釈という場合が多い。北朝鮮情勢の大きな流れを読み取ることはできても、ミサイル発射や核実験の具体的なタイミングを予測するのは不可能だ。特に金正日氏はサプライズの演出を好んだ側面があったと言われており、日米韓の予想をわざと外して楽しんでいる気配まで感じられた。そして、発足から6年弱にしかならない金正恩体制の傾向はまだよく分からない。記念日だからミサイル発射があるだろうと自信あり気に予測してみせるのは、少なくとも専門家のすべきことではない。北朝鮮がミサイル開発の継続を主張している以上、発射のタイミング予測がそのうち当たるのは当然だ。


新着記事

»もっと見る