金正恩体制になって祝日が4日増加
そうした前提に立ったうえで、北朝鮮の公休日(祝日)について少し紹介したい。
衆院選公示日と重なる党創建記念日は大切な祝日だ。北朝鮮憲法第11条は、「朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮労働党の領導の下にすべての活動を行う」と明記している(憲法全文は『新版 北朝鮮入門』に収録)。北朝鮮では国家より党が上に位置づけられており、祝日としても9月9日の建国記念日より盛大に祝われる。
こうした記念日には、党や国家の正統性を再認識させる教育的効果も期待されているようだ。北朝鮮は「5年」「10年」という区切りを重視するため、65周年や70周年という時には例年より大規模な祝賀となる。余談になるが、北朝鮮には数字遊びを好む傾向もある。たとえば金日成氏の生誕70年を記念して1982年に作られた主体思想塔には、70年×365日で2万5550個の花崗岩が使われているという具合だ。
祝日の中でもっとも重視されるのは金日成主席の誕生日「太陽節(4月15日)」や金正日国防委員長の誕生日「光明星節(2月16日)」である。この二つは「民族最大の名節」という別格の扱いをされており、それぞれの家庭でもできるだけの御馳走を食べて祝うことになっている。
日本で知られていないのは、金正恩体制になってから祝日が14日から18日へと増加したことだ。具体的には、先祖の墓参りをする「清明節」(4月4日頃、旧暦に基づくため毎年変わる)、金正恩氏が人材育成の一環として特に力を入れている「朝鮮少年団創立記念日」(6月6日)、金正日氏が18歳の時に先軍革命領導を開始したとされる「先軍節」(8月25日)、金日成氏が母親の役割について演説した日を記念した「母の日」(11月16日)である。
祝日の増設は、一般国民からの好感度アップを狙ったもののようだ。金正恩氏は、核・ミサイル開発を進める「強い指導者」として自らの権威付けを図るとともに、国民には「親しみやすい指導者」イメージを植え付けようとしている。動物園や水族館、スキー場などといったレジャー施設を整備するとともに、新しいタイプの楽団を創設するなど娯楽の多様化を図っていることも、こうした狙いに沿ったものだと考えられる。
平壌中心部・万寿台(マンスデ)に建つ金日成像も、金正恩体制になって変わった。金正恩氏は新たに金正日像を横に建立したのだが、その際に金日成像を厳しい表情から笑顔に変えたのだ。生前に自らの像建立を許さなかった金正日氏の初めての銅像もまた、笑顔である。金正恩体制については幹部粛清がたびたび伝えられたため恐怖政治というイメージが強い。しかし、それはあくまでも幹部向けであり、北朝鮮の指導者が一般国民に見せる表情は「微笑み」になったといえる。
なお、1月8日の金正恩誕生日(1984年)はまだ祝日とされていない。自らの権威が十分な水準に至ったと認識すれば、部下たちの「願い」を受け入れるという形で祝日になるのであろう。
日本ではほとんど知られていない最新版の祝日一覧を『新版 北朝鮮入門』から転載して紹介する。
(旧暦)1月1日 旧正月
2月16日 光明星節(金正日誕生日、1942年)
(旧暦)1月15日 正月テボルム(民俗名節)
3月8日 国際婦女節
4月4日頃※ 清明節
4月15日 太陽節(金日成誕生日、1912年)
4月25日 朝鮮人民軍創建記念日(1932年)
5月1日 国際労働節(メーデー)
6月6日※ 朝鮮少年団創立記念日(1946年)
7月27日 祖国解放戦争勝利記念日(朝鮮戦争休戦、1953年)
8月15日 祖国解放記念日(1945年)
8月25日※ 先軍節(金正日が「先軍革命領導」を開始、1960年)
9月9日 朝鮮民主主義人民共和国創建記念日(1948年)
(旧暦)8月15日 秋夕(旧盆、民族名節)
10月10日 朝鮮労働党創建記念日(1945年)
11月16日※ 母の日(金日成演説に由来、1961年)
12月27日 憲法節(社会主義憲法制定、1972年)
※は金正恩政権になって新たに指定された公休日。
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