2024年12月9日(月)

韓国の「読み方」

2017年9月20日

 日本上空を飛び越す北朝鮮の弾道ミサイル発射は日本にとって大きな脅威だが、その感覚を他国と完全に共有するのは難しい。韓国メディアで見聞きする論評のうちのある一言は、そのことを実感させる。韓国のネットでは「日本は騒ぎ過ぎだ」という声が多いというけれど、メディアに出てくる人々がそんなことを言うわけではない。「日本の上空を通過したのだから日本人が大騒ぎするのは当然だ。もし韓国の上空だったら我々だって大変な脅威を感じるはずだ」と言うのである。日本の対応に理解を示しているのだが、どこか他人事という響きは否めない。

16日に発射された北朝鮮のミサイルが再び日本上空通過したことも、もちろん韓国で報道されているが……(写真:AP/アフロ)

 そもそも韓国は以前から北朝鮮の脅威にさらされているから、脅威のレベルが特段上がったとは言えない。あるいは、韓国人は北朝鮮の脅威に「慣れてしまっているから」という説明もされる。どちらも間違っているわけではないが、それよりも冷戦終結後の四半世紀の間に起きた変化の影響が大きいと思われる。

 一方で最近は、過去最大規模の核実験を受けて韓国でも危機感が急上昇していると報道する日本メディアもあるようだ。しかし、これも実態はあやしい。広島型原爆の10倍以上という爆発規模は韓国でも驚きを持って迎えられ、在韓米軍への戦術核再配備や独自核武装を声高に語る保守系政治家や保守系メディアが出ていることは事実だ。ただ、実際には韓国ではこれまでも同様の主張が繰り返されてきたし、世論調査の数字を見れば核実験で脅威認識が高まったとは言えないのである。

9割から6割に減った核保有論

 9月の核実験直後に韓国ギャラップ社が実施した世論調査がある。韓国の独自核武装論に「賛成」という人が60%を占め、「反対」35%を大きく上回ったというものだ。これだけ見ると、今回の核実験で韓国でも危機意識が高まったのかと感じる人もいるだろう。

 だが実際には、この結果はこれまでの調査と変わらない。同社は発表資料に過去3回の核実験直後に行った調査結果を付しているのだが、それを見ると13年2月(3回目の核実験直後)が64%、16年1月(4回目)54%、9月(5回目)58%。今回を含め、ずっと6割前後である。

 米ランド研究所が90年代後半に韓国で実施した「もし北朝鮮が核武装したら韓国も独自核武装すべきか」と聞いた世論調査を見ると、核武装に賛成が96年9月調査では91.2%、99年2月調査で82.3%だった。北朝鮮の核開発を巡る状況が当時とはまったく異なるので同列に並べることは難しいが、長期トレンドで見れば韓国における核保有論は減少しているとさえ言える。

 貿易依存度の高い経済を持つ韓国には国際的孤立を甘受してまで核開発を進めるメリットはなく、核保有論に現実味はない。在韓米軍への戦術核再配備にしても実現可能性の点では同じだ。既に戦略核で十分な抑止力を持つ米軍が管理や警備に莫大なコストとリスクをかけて、韓国に戦術核を持ち込む意味はないからだ。韓国世論の反応は、北朝鮮が核兵器を持つなら対抗しなければという程度の軽い考えでしかない。残念なことだが、唯一の被爆国である日本と他国では核兵器に関する感覚はまったく違う。韓国も「その他の国」の一つなのだ。


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