この社説の批判は、やや一方的と思われます。
まず、社説は「ビジョン2030」を「絵に描いた牡丹餅」的に見ています。確かに「ビジョン2030」は野心的です。しかし、石油に頼らない経済作りは以前から何回も検討されてきており、「ビジョン2030」はこれまでの議論不足を踏まえて作られたものと考えられます。
サウジ政府が真剣なのは、その実現のため経済省庁を再編し、司令塔を経済開発評議会に一本化したことにもうかがえます。
具体的な項目ごとに目標の数値が掲げられていますが、仮にその半分が実現されたとしても、サウジ経済の大きな転換を意味するものとなると言えます。
批判の第二の問題は、人権に関するものです。
社説は、今回実施されたむち打ち刑について、何世紀も前の現象であると言っています。しかし、むち打ち刑は何も今回が初めてではありません。サウジでは、以前より件数は大分少なくなったとはいえ、依然として毎週公開処刑を行っており、その中に、むち打ち刑も入っています。
公開処刑も含め、サウジには中世を思わせる側面が残っているという印象があります。公開処刑が行われているのみならず、言論の自由、集会の自由がありません。この面では、サウジは近代国家には程遠いものがあります。
社説は、新皇太子が近代社会を約束したと言っていますが、「ビジョン2030」は経済体質の転換、経済の近代化を図ろうとするものであり、人権を含めた社会の近代化を目指すものにはなっていません。
最近サウジで来年の6月から女性の自動車運転を認めることが発表され、話題を呼びました。これは基本的には、運転により女性の活動範囲が広がることで、「ビジョン2030」に掲げられた、労働力に占める女性の割合の増加への貢献を期待してのことと思われます。女性の運転禁止は、ワッハーブ主義の僧侶階級の考えを反映したものと思われますが、その僧侶階級を説得して禁止を解除したことはムハンマド皇太子が「ビジョン2030」の計画を実践する強い決意を持っていることを示すものでしょう。なお、女性の運転許可が女性の人権の推進の意義を持っていることは言うまでもありません。世界の報道はこの点に焦点を当てています。
いずれにしても、サウジの社会の近代化は徐々に進むものと思われ、その間は中世的事象も続くことになるでしょう。
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