2024年4月25日(木)

安保激変

2017年11月2日

 宇宙配備センサーの中でもう1つ注目されるのが、宇宙配備迎撃評価衛星(Space-based Kill Assessment:SKA)である。SKAの役割は、BMDによる迎撃の成否を判定するという一見地味なものだ。しかし、迎撃の成否を正確に確認できなければ、防御側は確実な迎撃を行うために一度に複数の迎撃ミサイルを発射しなければならなくなり、それだけ“弾切れ”になるのが早まってしまう。敵弾道ミサイルの多数同時発射や短時間での連続発射による飽和攻撃を想定すれば、その問題はより深刻になる。特に、ICBMのように宇宙空間を移動する時間が長いミサイルに、GBIやSM-3BlockⅡAのような高高度迎撃ミサイルで対処する場合、なるべくミッドコースの早い段階で最初の迎撃の成否を確認できれば、追加発射の必要があるかどうかを判断する余裕が生まれる。これは迎撃ミサイルの無駄撃ちを防ぎ、弾切れに至るまで時間を後ろ倒しするという点において、BMDに付きまとう費用対効果の悪さを改善する狙いがある。

 またSKAは単独の衛星ではなく、10㎏程度のセンサーモジュールを商用衛星などに相乗りする形でコンステレーションを形成しようというホステッド・ペイロード形式をとっている。北朝鮮のスカッドERやノドンのTELは計150両ほど存在すると見積もられており、日本も弾道ミサイルによる飽和攻撃の可能性を無視できない。こうした小型の宇宙センサー配備については、日米共同で順次打ち上げを行うといった協力も模索されてよいかもしれない。

 これ以外にもトランプ政権では、かつてレーガン政権期の戦略防衛構想(SDI)で検討されたような、宇宙配備型迎撃システムの研究開発を推進すべきとする声もある。今後米国のミサイル防衛関連予算は、政府・議会の両面から後押しを受け、増加する傾向に向かうと見られるが、その際には迎撃ミサイルなどを含む既存の地上配備システムと、宇宙配備システムとの間で、どのような投資のバランスをとるかも注目されるだろう。

ノンキネティックな迎撃システムの活用も

 第四に注目されるのは、極超音速滑空弾頭などの新たな脅威と、それに対抗するための新技術に関する書きぶりである。現在中露が開発していると見られる極超音速滑空弾頭は、ブースターの分離後に大気圏ギリギリを飛翔することから、SM-3のようなミッドコース迎撃システムでの迎撃は効率的ではない可能性があるため、大気圏内での高い機動性と加速力を持った迎撃システムによって領域防衛範囲を広げる必要がある。こうした手段としては、THAADの射程延伸版(THAAD ER)やレールガンでの対応を視野に入れた研究開発が進められている。

 こうした一方で、物理的な運動エネルギーに寄らないノンキネティックな迎撃システムの活用も一層加速することが見込まれる。その1つ、指向性エネルギー兵器(Directed Energy Weapons:DEW)は米海軍を中心に実証実験が進められおり、既にドック型輸送揚陸艦「ポンセ」に搭載されている30キロワット級レーザーでの無人標的の破壊に成功している。この他、対艦巡航ミサイルなどに対処可能な、150~300キロワット級のソリッド・ステート・レーザーを用いた研究も継続されているが、高速で落下してくる弾道ミサイルを破壊するためには、より高出力での照射とそれを可能にする電源をどのように確保するかという課題も指摘されている。

 他方、ミサイル発射後の対処策とは全く異なる文脈で検討されているものに、Left of Launchと呼ばれる概念がある。Left of Launchとは、ミサイルの発射手順を左から右に流れる時間軸として捉え、発射前に取り得るサイバー工作や電子妨害、誤作動を引き起こす偽装部品の混入(サプライチェーン工作)などの措置の総称である。Left of Launch関連プログラムの詳細は殆ど公開されておらず、一部では都市伝説のような扱いを受けているが、2014年11月には、当時の海軍作戦部長と陸軍参謀総長がヘーゲル国防長官に対し、「本土および地域のミサイル防衛に関しては、Left of Launchや他のノンキネティックな防衛策を組み合わせた、より持続可能かつ費用対効果の高い包括的アプローチを発展させるべき」とする連名のメモを提出している他、オバマ政権の高官であったウィネフェルド元統合参謀本部副議長やモレル元CIA長官代行が、北朝鮮の弾道ミサイル脅威に対処するための措置として、Left of Launchと従来型の事後対処(Right of Launch)双方の取組強化を示唆していることなどからすると、米政府がそうした取り組みに着手していることは確実であろう。

 一部報道では、2000年代半ばに、イスラエルのモサドと米情報機関が協力して、イランが部品などを購入する闇市場にダミー会社を設立し、欠陥品やマルウェアに感染した部品を混入させることに成功。それが2006年6月にナタンツのウラン濃縮施設で発生した変圧器の爆発に繋がったとされており、米国が同様の手法を北朝鮮などに対して既に実行している可能性も否定できない。

 以上のように、トランプ政権におけるBMDRでは、従来型のBMDに加え、巡航ミサイルや極超音速滑空弾頭への対処、それらに対抗する様々な先端技術の活用がいかなる政策的後押しを受けるかが注目される。同時に、米本土防衛と、極東や欧州の同盟諸国を含む地域防衛との関係をどのように差異化(あるいは同一化)するのか、それによるロシアや中国との戦略的安定性をどのように再定義するのかなどが焦点となるだろう。

  
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