大きくは2つ。1つめは、「セキュアな」システムとして作られていることだ。前述の通り、解錠は、鍵で行わない。当然、解除信号を発信しなければならないのだが、この通信に使われるのはWi-Fiではなく、LTE(携帯電話で使われている通信方法。より安全性が高い)を使っている。多分、民生用として、今もっともセキュアなシステムだろう。
ホームセキュリティーシステムは、「家全体を見張ろう」という考えで作られる。このため、予め家全体に張り巡らされている家庭用の無線LAN、つまりWi-Fiを基本とするのが通例。しかし、Wi-FiとLTEだと、Wi-Fiの方がセキュリティは脆弱だ。政府の通信でも、重要な事項は特別の独立回線、ホットライン。絶対他に漏れないようにするが、それと同じ考えと言うこともできる。
2つめは、鍵のシェアを前提に考えられているということだ。例えば、4人家族の場合、4人がそれぞれ鍵を持っていることが、望ましい。しかし子どもは幼く、鍵を落としてしまう可能性が高い。しかし鍵を渡していないと、母親の帰り時間が遅れた時など、外で待つハメに陥いる。ティンクだと、子どもに数字認証で開けさせれば事足りる。また何番で玄関が開けられたかどうかは、スマホに通知が来るので、今、どんな状態なのかも分かり、安心だ。
数字認証を例に取ったが、鍵でも「一回だけ有効」「期間限定」の様に多彩な設定が可能で、相手に合った形でシェアすることができる。
一回だけ有効なんて意味あるのかと思うかもしれないが、例を挙げると宅配便の受取に有効だ。宅配業者に、1回だけ使える鍵をメールで送っておけば、玄関に入れておいてもらうことができる。宅配ボックスを外に付けるより、よほどスマートだし、宅配業者も鍵を持っていることは、公にされているので、滅多なことはしない。
実はティンクのプロモーションビデオに、浮気した彼を彼女が部屋から追い出し、彼の合鍵をさっさとスマホで消し、使えなくしてしまうシーンがある。社長さんの思いが滲み出ているシーンで笑ってしまった。
シャープのベンチャーサポート
今回の発表会は、製品の出来にも驚いたが、すでにある程度売り先が決まっていると言うことにはもっと驚いた。
売り先は「アパマンショップ」。全国 約130万戸、内 直営が約6万5000戸の業界大手だ。直営の空いているところから、順次変えて行くと言うことだが、より安全な鍵が付いているというのは、家の価値を上げるため、 アパマンショップとしては嬉しい話だ。
ベンチャー企業は、「情熱」という世代交代した大手メーカーが忘れかけた重要な要素を持っているものの、必ず2つの問題にぶつかる。1つは営業をどうするのか、あと1つは量産化の経験がない、ということだ。
今回、営業は上手く利が合致し決まったということだが、量産化はどうだろうか? 実は彼等のパートナー、あの「シャープ」。シャープが作るのではなく、強力なサポーターになったのだ。
経営騒動が一段落したシャープが、2016年11月から始めた「モノづくりブートキャンプ」。ツムグはその初めての参加者であり、成功者でもある。「モノづくりブートキャンプ」は、今シャープが行っている「モノづくり研修」の一貫で、「モノ作り研修」はシャープがIoTベンチャー企業を相手に行っている研修&コンサルティングだ。ブートキャンプは、天理のシャープ総合開発センターに10日間、合宿体制で行われる。シャープの考え方、それから導き出されるノウハウなどを教えてくれるわけだ。今までに4回行われ21社が受けているそうだ。費用は85万円/社(1社2名)かかるが、人数と手間を考えるとシャープはほとんど儲けていないはずだ。
またシャープだけでなく、資金調達などのコツは投資ファンドのABBALab社が行うなど、適所適材で対応する。
この研修を経て、シャープは次に「量産支援サービス」を行うのだが、ここからは完全会社別。シャープは、支援先と密に打ち合わせながら、工場選定、生産委託、検査、品質保証などのアドバイスを行う。この一連のことをシャープは、「モノづくり研修」としている。
受講より、1年。シャープのアドバイスを受けながら、量産化の目処が付き、発表に至ったわけだ。
なお、シャープの方に、なぜこのようなことを始めたのかと聞いて見ると、「シャープがベンチャー企業であったことを忘れないため。」だそうだ。どの会社も初めから大会社でない。製品がヒットするとベンチャーから大企業へなるが、多くの場合、その時に作りたいモノを作ることから、大量に雇った人を食べさせなければならないという形のモノ作りになることが多い。多くの場合、そのような状態でいいものはできない。「初心を忘れない」ことを目指すシャープは本当に一皮剥けたかもしれない。