10月21日、中国国家統計局は2010年7~9月期の国内総生産(GDP)が実質で9.6%増加したと発表した。成長率は4~6月期を0.7ポイント下回り、四半期ベースで4期ぶりに1ケタ成長となった。
今年に入ってからの経済成長率を見てみると、第1四半期(1~3月)は11.9%の高い数値を記録したが、第2四半期(4~6月)になるとそれが10.3%に減速した。そして第3四半期の7~9月期には、成長率はさらに鈍化して9.6%に下がっていることは前述の通りである。
今すでに始まっている第4四半期(10月~12月)はどうなるのか。中国国内の一般的な見方としては、成長率はさらに下がっていくだろうと予測されている。9%台を切ってしまう可能性もあると言われている。中国人民大学経済学院副院長の劉元春教授が、「今年の第4四半期(10月~12月)から中国経済は予想を超えた大きな下落を始めるだろう」との警告を発したことは、前回の本コラム(2010年7月21日付『一斉にボロを出し始めた中国経済の行く末』)でも報告した通りだが、中国国家発展改革委員会マクロ経済研究院の陳東期副院長は最近、今年の年末辺りから中国経済は「二番底」になるだろうと予測している。
2010年に入ってからの中国の経済成長は、緩やかでありながらも、徐々に鈍化していく傾向となっていることは明らかである。
インフレをわざと「過小評価」する中国政府の思惑
しかしその一方で、実に不思議なことに、成長の減速と同時進行的に、インフレの傾向はむしろ高まりつつある。去年の11月には0.6%に止まった消費者物価指数(CPI)は今年に入ってから上昇する一方である。5月にはそれが3.1%に上がり、中国政府が「インフレ警戒線」として設定している「消費者物価指数3%」のラインを突破してしまった。8月にはCPIが3.5%に上昇したが、それは、08年11月以降のCPIは前年同期比伸び率の最高水準で、22カ月以来の最高水準でもある。そして9月にはCPIはさらに上がって3.6%となったから、インフレの傾向が徐々に強まってきていることは明らかである。ちなみに、国家統計局の姚景源エコノミストは10月23日、10月のCPI上昇率は9月をさらに上回るとの見通しも示している。
実は、統計局の発表した「CPI上昇率3.6%」という数字に対し、「それは実態より低すぎるのではないか」との疑問の声が国内から上がっている。たとえば名門の清華大学公共管理学院の肖耿教授は、「現在公表のCPI上昇率はインフレの度合いを著しく過小評価している。実際のインフレ率はその倍以上となっているはずだ」と指摘したことがその一例である。中国では、民衆の不安の高まりを恐れて、政府が常にインフレ率を実態よりも低く見積もって発表していることは専門家の間では公然の「秘密」となっている。
収入減とインフレのダブルパンチで
崩壊へ向かう庶民の生活
民衆に対して嘘をつきながら、当局自身は問題の深刻さを十分に認識している。中国人民銀行の周小川行長(日本で言えば日銀総裁)は10月22日、上海で開かれた経済関係のフォーラムの席でインフレ問題に言及して、「中国ではインフレのリスクが高まっており、われわれは厳しい試練に直面している」との衝撃発言を行って注目を集めているが、中央銀行のトップの立場にある人が、「われわれは厳しい試練に直面している」と言葉を口にしたことは、まさに中国政府の抱く危機感の現れであろう。
このようにして、2010年に入ってから、中国では経済成長率の継続的下落と同時進行的にインフレ率は上昇しつつある、という現象が起きているのである。