2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年12月11日

 ナイは、米国衰退論に一貫して反駁してきました。米国は地政学、貿易経済、エネルギー、通貨の分野で大きな対中優位を持っていると主張しています。中国がエネルギーの脆弱性を克服する方策は、南シナ海での米海軍との対立を止めるか、ロシアの天然ガスに依存するか、再生エネルギーへの転換と石油内燃エンジンの禁止をするか、三つしかないとの議論は興味深いです。

 論説からは、トランプに批判的なナイの姿勢も行間に窺われます。

 ナイの議論には、基本的に同意できます。米国衰退論は、多分にジャーナリスティックなものです。過剰な自信を持った中国が、頻りに米国衰退論を述べ始めたことに多くの米国人は反発しました。しかし、数点指摘しておきたいことがあります。

 第一に、米国のパワーの優位は変わっていませんが、日欧や中国等との「相対的な優位」の幅は縮小してきています。その意味で、米国が政策を誤らずに、経済力、技術力などを強化していくことが重要です。例えば、米外交問題評議会のリチャード・ハース会長等は、強い外交には先ず国内を強くすることから始めるべきだと議論しています。

 第二に、ナイの四つのエース・カードに追加するとすれば、米国のリベラル・デモクラシーという価値(文化)でしょう。これこそが中国の最大の脆弱性です。中国は、民主主義や国際協調といった価値や文化を欠いています。一部の国は中国の資本が欲しいため、あるいは中国の強圧のためにその影響下に入るかもしれませんが、利益の合致は一定限度の緊密な関係の基盤になりうるとしても、信頼に基づく真のパートナーシップにはならないでしょう。この点で中国が変わらなければ、中国は真に指導的な大国にはなれないでしょう。

 第三に、米国が世界から撤退すると「役割の空白」が生じます。米国がその方向に進まないよう同盟国等が影響力を行使することが重要です。この点がトランプ政権発足当初に強く懸念されましたが、その後トランプが世界と一定のエンゲージメントをしていることは、ともかく救いです。

 しかし、貿易に関するトランプ政権への不安は解消されていません。トランプは11月の訪日の間も二国間の貿易不均衡が問題だと述べ、相互主義を強調する等、時代錯誤的な国際貿易観は変わっていません。

 第四に、習近平外交の目玉である一帯一路政策の先行きは未だ分かりません。この構想には、増える外貨をリサイクルせねば経済が回らないという防御的な側面もあります。またインフラ事業はAIIB等中国の借款で賄われますが、それは過度の中国依存や返済焦げ付きの問題を引き起こしかねません。

  
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