2022年8月18日(木)

「犯罪機会論」で読み解くあの事件

2017年12月25日

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小宮信夫 (こみや・のぶお)

立正大学文学部教授

立正大学文学部教授。社会学博士。日本人として初めて英国ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。
警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「非行防止・犯罪の被害防止教育の内容を考える委員会」座長などを歴任。
代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。
公式ホームページは、「小宮信夫の犯罪学の部屋」http://www.nobuokomiya.com

景色の中で安全と危険を見分ける「景色解読力」

 話を元に戻そう。誘拐犯が日本人にターゲットをロックオンした後、どう動くか。そこが、「入りやすく見えにくい場所」なら、いきなり襲ってくるかもしれない。なぜなら、「入りやすい場所」ということは、「出やすい場所」でもあるので、無理やり連れ去ることも容易だからだ。そして、「見えにくい場所」なら、無理やり連れ去るところを目撃されずに済む。

 例えば、絶景ポイントはどうだろう。そこにたどり着くのが容易なら「入りやすい場所」で、周囲に展望レストランなどがなければ「見えにくい場所」だ。しかし、幹線道路まで遠いなら「入りにくい場所」で、土産の売り子が多ければ「見えやすい場所」となる。その場の景色を見て、「入りやすさ」と「見えにくさ」という物差しで、今現在の危険性を測ることが必要なのである。

2016年7月にレストラン襲撃テロで日本人7人を含む20人が犠牲になったダッカでは、ホテルのセキュリティも強化されている(バングラデシュ)。

 一方、そこが、「入りにくく見えやすい場所」なら、誘拐犯はだまして連れて行こうとするだろう。例えば、土産物屋が取り囲んでいるような場所では、いきなり襲うことは難しい。しかし、話しかけるだけなら、周囲から目撃されても警察に通報されることはない。誘拐犯は親しげに近づいてくる。日本語で話しかけてくるかもしれない。「ガイドブックに載っていない絶景ポイントを知っているよ」「一番有名な土産物屋を教えてあげる」。そう言って、「入りやすく見えにくい場所」に連れて行くのだ。

 こうした誘拐の手口は、強盗の場合も同じである。日本語の旅行ガイドブックを広げていると、日本から来た観光客であることが分かってしまう。さらに、歩きスマホをしていると、無防備であることをアピールするだけでなく、その場所の景色を無視しているので、二重の意味で、危険を呼び寄せてしまう。誘拐や強盗に遭わないための最強の武器は、景色の中で安全と危険を見分ける「景色解読力」なのである。

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