2024年4月20日(土)

「犯罪機会論」で読み解くあの事件

2017年12月25日

景色の中で安全と危険を見分ける「景色解読力」

 話を元に戻そう。誘拐犯が日本人にターゲットをロックオンした後、どう動くか。そこが、「入りやすく見えにくい場所」なら、いきなり襲ってくるかもしれない。なぜなら、「入りやすい場所」ということは、「出やすい場所」でもあるので、無理やり連れ去ることも容易だからだ。そして、「見えにくい場所」なら、無理やり連れ去るところを目撃されずに済む。

 例えば、絶景ポイントはどうだろう。そこにたどり着くのが容易なら「入りやすい場所」で、周囲に展望レストランなどがなければ「見えにくい場所」だ。しかし、幹線道路まで遠いなら「入りにくい場所」で、土産の売り子が多ければ「見えやすい場所」となる。その場の景色を見て、「入りやすさ」と「見えにくさ」という物差しで、今現在の危険性を測ることが必要なのである。

2016年7月にレストラン襲撃テロで日本人7人を含む20人が犠牲になったダッカでは、ホテルのセキュリティも強化されている(バングラデシュ)。

 一方、そこが、「入りにくく見えやすい場所」なら、誘拐犯はだまして連れて行こうとするだろう。例えば、土産物屋が取り囲んでいるような場所では、いきなり襲うことは難しい。しかし、話しかけるだけなら、周囲から目撃されても警察に通報されることはない。誘拐犯は親しげに近づいてくる。日本語で話しかけてくるかもしれない。「ガイドブックに載っていない絶景ポイントを知っているよ」「一番有名な土産物屋を教えてあげる」。そう言って、「入りやすく見えにくい場所」に連れて行くのだ。

 こうした誘拐の手口は、強盗の場合も同じである。日本語の旅行ガイドブックを広げていると、日本から来た観光客であることが分かってしまう。さらに、歩きスマホをしていると、無防備であることをアピールするだけでなく、その場所の景色を無視しているので、二重の意味で、危険を呼び寄せてしまう。誘拐や強盗に遭わないための最強の武器は、景色の中で安全と危険を見分ける「景色解読力」なのである。


新着記事

»もっと見る