2022年8月14日(日)

家電口論

2017年12月30日

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多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

ダイアログオーブンを創った意味

 先ほども書いた通り、この製品、電子レンジの周波数替えが技術の根幹だ。頭が切れる技術者が揃っている日本メーカーで似たモノが出て来ないのであろうか? ミーレが開発に成功した理由は、明らかにされてはいないが、ミーレが『高級白物家電』メーカーだということと、筋の通った開発をすることが大きく関与していると思われる。『高級品』は幾つかの要素から成り立つが、その中の一つに「基本的に欠点がない」ことが上げられる。

 電子レンジ、先ほど書いたように「マイクロ波」を使い、食材の中の水分子にエネルギーを与え、温度を上げることにより、「温める」機能を持つ。何故「温め」機能かというと、100℃で水は蒸発してしまうからだ。要するに、電磁レンジで100℃以上の加温はできないのだ。肉を焼く場合は、250〜300℃必要で、その温度に達しないのだ。

 確かに便利な家電なのだが「金属を持ち込んではいけい。」のようなNGがあること。後、「豚まん」のような食材を温めるのは苦手であることはご存じだろうか? 双方とも、電子レンジの原理に由来する。金属関連は、比較的イメージしやすいので、「豚まん」の説明を添える。豚まんは元来、「蒸し」調理。つまりパサパサの皮では美味しくない。しかし電子レンジは、食材中の水分を加熱して温めるのだが、かなりの水分が蒸発する。豚まんの皮のように、タップリ水分を含まないといけない料理の温めには向いていないのだ。あれだけ、電子レンジが並んでいるコンビニでも、豚まんは什器を兼ねた蒸し器の中で温められる。

 このようにいろいろな知識が必要なものは、高級品には相応しくない。あれもダメ、これもダメというのは、高級品に相応しくないのだ。高級品は、自分らしく使うものだからだ。このため高級品は、変に多機能化されない。

 今回の開発が、未来のオーブンを目指した発想か、欠点のない電子レンジを目指した発想なのかは、不明だが、ダイアログオーブンには、従来ヒーターも搭載されているということから、欠点のない電子レンジを目指したと思われる。が、重要なのは、「ユーザーのやり方で使える調理家電」という意識だ。

 また並行して重要なことは、ミーレは、時間を掛けて「新しい」ものを開発するということだ。ミーレの社標は「IMMER BESSER(よりよいものを)」だ。これを貫くために、ミーレは株式会社ではない。銀行など、投資家に口を入れささないためだ。

 日本の場合、大型白物家電でも、基本1年でモデルチェンジを行う。当然、新しい技術ができたので搭載すると言うより、今までの技術で、目先を変えた形のモノが多い。開発を2チーム制で行ったとしても、与えられる時間は2年。抜本的な見直しを行うには、短すぎる時間だ。今までの技術の上乗せと言うことが多いのは、そのためだ。

 ミーレは設計理念の1つに、20年以上使えるというのがある。20年飽きずに、実用に足るという意味だが、これは非常に厳しいオーダーだ。手を抜けば、デザインも技術も陳腐化する。そうさせないためには、人も時間も掛かる。以前食洗機の開発話を聞いたが、その時は6年掛かったという話だった。今、白物家電を作っている大メーカーで、それは許されない。四半期決算を導入した今、株主に6年後に完成の予定です。と言ったら、「早くしろ!」「急がせろ!」の大合唱だろう。第一経営者が、自分の任期中に成果がでない開発を認めるか、怪しいものだ。

 しかも調理家電は、テレビの様に、次の課題が決まっているものではない。しかも、今の製品とまったく違うアプローチが必要だ。そう考えると、大手メーカーが、ダイアログオーブンの様な開発に時間が掛かる。画期的なものは難しく、むしろ作りたいものを作るベンチャーの方が向いている。

普及への課題

 新しいモノ、特にダイアログオーブンの様な同じ加熱調理でも、正直、全く技術アプローチが違うモノは、どう使って良いのか分からない。今、私に分かるのは、食材単体を「焼く」のは大丈夫と言うことだけだ。例えば、クリスマス、鶏の中に野菜を詰めてオーブンで焼くのは、ダイアログオーブンでしたら、どんな仕上がりになるのか見当が付かない。

 要するに、ダイアログオーブンの料理が判然としないのだ。それが示されないと、買うのがお得なのか、否かも判然としない。要するに市場普及のための施策を取らなければならない。

 実は、ミーレはこれを世界中のシェフに解決してもらおうと考えているようだ。シェフは実にクリエイティブな職業であり、最高の味を求めて、いろいろモノに挑戦している。ミーレはそのタフさ、完全さ、そして確実さから言って多くのシェフのお気に入りでもある。そのミーレが、こんなことが出来るようになりましたという今回のダイアログオーブン。食手がのびないわけはない。

ダイアログオーブンの外観。普通のビルトイン型のオーブンレンジと変わらない。

 この結果は、Mシェフ(ミーレシェフ)に溜められていくそうだ。日本でいう調理プログラムである。電磁波を操るこのダイアログオーブン、当然IoT化されている。日本での発売は未定であるが、ドイツでは来年春からの発売。どんな料理が出てくるか、非常に楽しみだ。

  
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