2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年12月24日

 9月の尖閣諸島問題が発端となり、日本人は再び中国人の反日感情と向き合うことになった。これは05年以来のことだが、二つの反日を比べたとき、日本国内での反応に決定的に違っている点が一つ見つかる。それは、今回のケースでは財界がほとんど沈黙を守ったことだ。

 日本の首相による靖国参拝が主要テーマであった前回は、経団連を始め財界人が相次いで小泉純一郎首相を訪ねて参拝を見合わせるように進言を重ねた。それに比べ今回は、異様なほど静かだった。靖国問題と主権に関わる尖閣問題では単純に比べられるものではないかもしれないが、その要素を省いたとしても財界の反応は控えめだった。

「もう諦めた」日本企業が続々と中国に進出

 その理由は何か。一言で表せば「もう諦めた」ということだろう。世論に敏感な政界と企業行動との間に出来た溝を敢えて埋めようとの行動には出ず、黙って海外に出ていってしまっているのだ。世界金融危機後にサバイバルの精神を刺激された企業には、日本への執着よりも生き残りを優先させる選択が定着してしまったのだ。実際、ある大手自動車メーカーは、リーマンショック後に35%程度だった海外生産を75%まで引き上げたという。これは自動車産業に限った話ではなく、海外に打って出る力のある企業は、みな共有している感覚だ。

 これが引き起こす問題は深刻だ。日本企業はいずれ、日本企業なのに日本に税金を払うことがなくなり、日本人も雇用しないという現実が近付いてくるからだ。つまり今後、日本企業の業績が上向いても、中国の大卒の就職率に貢献し、中国の国家財政を潤わすことがあっても、日本には僅かの貢献しかしないという状況が現出しかねないということだ。これは生産基地だけを移転してブルーカラーの労働者の職を奪った空洞化どころではない「究極の空洞化」なのである。

 尖閣諸島問題が起きて以降、日本では中国をにらんで防衛力の強化に強い関心が高まっている。これ自体も当然のことだが、中国と日本の間に挟まれ苦悩する企業を軽視し短視眼的な強硬論ばかりを振りかざせば、企業の中国への流出を加速させかねないのだ。そうなってしまえば、もし将来、日本が防衛力を強化しようとしても、そのころには経済が傾き税収も激減したために予算さえ組めないといった深刻な事態を招きかねないのだ。

 少なくともいま、日中貿易を概括すれば日本は経常収支で3兆円弱を稼ぎ出す受益者であり、投資に対するリターンは中国が栄えるほど配当が膨らむという構造を備えている。さらに日本はこれまで、中国という装置を活用することで、バブル経済崩壊後の経済の長期低迷で目減りした収入の痛みを和らげてきた。こうした点を冷静に見れば、日本人が対中関係で被害者意識を膨らませる必要などどこにもないのだ。

 だが、もはや中国は日本経済にとって都合の良い存在ではなくなりつつある。例えば、人件費を低く抑えるために進出企業とタッグを組んでくれた政府も、もはや民意を無視できるほどの強さはないのだ。

 中国は日本にとって最悪の国なのか?

 ここで最後に設問である。歴史問題で日中関係に抜けない〝対立の棘〟を打ち込んだ共産党政権は常に日中関係を悪化させる元凶とされてきた。しかし共産党政権下の中国は、本当に日本にとって最悪の中国だったのだろうか。


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