冷戦終結後に大きく変化した韓国人の統一観
ただ、やはり世代論だけでは説明不足だ。合同チームに対しては、韓国リサーチ社調査では全世代、韓国ギャラップ社調査でも40代以外の全世代で否定的な見方の方が多かった。そうした冷めた見方の背景には、統一に対する考え方の変化があると考えられる。
韓国人の統一観に大きな変化が出たのは冷戦終結後のことだ。その頃から南北対話が本格的に行われるようになり、アップダウンを繰り返しながらも2000年に初の南北首脳会談が行われたことで交流は一気に進展した。そして、韓国の人々は北朝鮮の実情を知って統一に尻込みするようになった。
00年の南北首脳会談直後、毎日新聞ソウル支局で働いていた当時20代後半の女性が発した言葉は印象的だった。南北対話が一気に活性化し、北朝鮮の代表団が次々と韓国にやってきていた時期だ。彼女は、代表団を乗せてきた北朝鮮国営の高麗航空機が金浦空港(ソウル)に駐機しているテレビ映像を見て、「あの飛行機を見ると統一が恐くなってきた」と言ったのだ。理由をたずねると、彼女は逆に「統一なんて遠い未来の話だと思っていたのに、あの飛行機を見ていたら本当に起こるかもしれないと思えてきた。でも、統一したら韓国の経済はどうなるんでしょうか」と聞いてきた。
冷戦時代のように統一が見果てぬ夢だった時には「一日も早く統一を」と叫んでいればよかったが、いざ現実になるかもしれないとなると経済的負担を考えてしまう。特に、貧しかったけれど将来には希望を持てた高度成長期が終わり、韓国経済は安定成長の時代に入っていた。北朝鮮の貧しさとは対照的な自分たちの豊かさを考えると、重い負担を心配する心理が出てくるのは当然だった。
「10年以内に統一が可能だと思うか」という韓国ギャラップ社の世論調査では、1992年に6割近かった「可能だ」という意見が、首脳会談後の2003年には2割にまで減っていた。
世論調査に模範解答する人が減った
その後の変化を追うには、ソウル大統一平和研究院が2007年から毎年行っている世論調査が有用だ。韓国ではこうした継続的な調査があまり行われてこなかっただけに、10年以上続いているソウル大の調査は貴重である。
まず「統一の必要性」という質問項目がある。現時点で発表されている最新調査である16年の調査では「必要だ」53.4%、「半々」22%、「必要ない」24.7%だった。「必要だ」は初年度の07年こそ63.8%だったが、翌年以降はずっと50%台にとどまっている。
そもそも「統一が必要か」と聞かれたら、「必要だ」と答えるのが模範解答であることは誰でも分かっている。それなのに「半々」や「必要ない」と答える人が合計で4割を超えるというのは、驚くべき数字だというべきか、本音を隠さない人が多いというべきか、どちらだろうか。
統一の是非ではなく、どのように統一を進めるべきかを聞く質問への回答も興味深い。「どのような対価を払ってでも早く統一を」という、いわば模範解答は毎年1割前後。正反対の「統一に関心がない」という人も毎年1割弱だ。両極端で合計2割程度というのは07年からずっと変わっていない。
では中間派というのは何か。「統一を急ぐより条件が整うまで待つべきだ」と「現状のままがいい」が常に合計で8割ほどを占める。予測可能な時期に条件が整うとは考えられないから同じではないかと言いたくなるが、やはり「現状のままがいい」とは答えづらいのだろう。ところが、この2つの選択肢の中では「条件が整うまで」派から「現状がいい」派への移動が起きている。07年には前者が70.6%、後者が11.8%だったのに、16年には前者が54.1%、後者が23.2%になったのだ。
なぜ統一すべきなのかという理由を問う質問でも、同じように模範解答である「同じ民族だから」という回答が低落傾向にある。07年に50.7%、翌08年に58.7%だったが、その後は40%台に落ち込み、16年には初めて4割を割り込む38.6%となった。ここで増えているのは「南北間の戦争の脅威をなくすため」という現実主義的な回答だ。07年に19.2%、08年に14.5%だったのが、16年には29.8%にまで上昇した。
早稲田大学の李鍾元教授は先日の講演で、韓国人のこうした北朝鮮観を「最前線のリアリズム」と評していた。軍事衝突が起きれば大きな被害を免れない最前線に位置するだけに、統一を熱望しているわけではなくとも、脅威を減じさせるために信頼できない相手とも対話や交流をするしかないという現実的な判断だ。朝鮮半島情勢の当事者として韓国が主体的な役割を果たしたいという文政権の「運転席論」には危うさを覚えるものの、それでも戦争だけは避けようと考えること自体は不思議ではないだろう。
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