「ロシアが情報工作をして米国大統領選をねじまげた」という話が、米国の政界とマスコミを席巻していますが、最近、不正手段を用いて虚偽の情報をばらまいては敵対する国をかく乱することを「シャープ・パワー」と名付け、あれこれ議論されています。ここでは、Project Syndicateに2月1日付で掲載された、全米民主主義基金の研究分析担当副会長Christopher Walkerによる論説を紹介します。論説のあらましは次の通りです。
近年、ロシアと中国は、マスコミ、文化、シンク・タンク、学界等「ソフト・パワー」と目される分野に、数十億ドルもの金をつぎ込んできた。その割には、両国は相変わらずソフト・パワーを欠いている。やはりすべてを管理したがる専制的な体制は、魅力ある文化、ソフト・パワーを生むことができないのである。
この両国はハード・パワー=軍事力にのみ依存しているわけでもなく、他方ソフト・パワーも十分には持っていない。しかも、両国がソフト・パワーと称するものは、外面上はそうでも、中身はシャープ・パワーとでも称するべきものである。つまり両国が拡散する情報は自由でオープンなものではなく、検閲され、歪曲され、操縦されたものなのである。
世界の民主主義国は、中ロ両国のしていることに、ソフト・パワーとは明確に区別した言葉を付して、適正な対策を講じなければならない。
出典:Christopher Walker,‘The Point of Sharp Power’(Project Syndicate, February 1, 2018)
https://www.project-syndicate.org/commentary/soft-power-shortcomings-by-christopher-walker-2018-02
Christopher Walkerは、昨年12月、勤務先の全米民主主義基金(National Endowment for Democracy)のサイトに“Sharp Power: Rising Authoritarian Influence”を発表 してシャープ・パワー論議を先導している人物です。シャープ・パワーというのは、ジョセフ・ナイの提唱した「ソフト・パワー」概念をもじったもので、武力を用いる「ハード・パワー」と文化の徳をもって他人をなびかせる「ソフト・パワー」の中間に位置するものです。つまり、武力は用いないが、フェイク・ニュース等、不法な手段を用いる工作活動のことです。
上記論説は、字面だけを見れば、反対することは何もありません。海外のロシアの外交官は近年、本省からの訓令をそのまま奉じて「ソフト・パワーが大事だ」と叫んで走り回っています。しかし、ロシアの現代文化に素晴らしいものは多いのですが、保守的な政府関係者はそれらを知らない上に海外であまり紹介しないので、一向にイメージ・チェンジができないでいます。すなわち、ソフト・パワーは生み出されていないということになります。