2022年8月8日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年3月5日

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 中国の外交官は、任国のアジア専門家に電話をしては、「今晩うちの大使がお話をしたいと言っている」と言い張り、日本関係の催しへの出席を妨害するなどしています。こういう専制主義国が使えるものは、確かに、筆者のWalkerが言うように、ソフト・パワーならぬシャープ・パワーでしかあり得ないのでしょう。

 しかし、Walkerがこの論説で当てこすっている、ソフト・パワーの御本家ジョセフ・ナイは、Foreign Affairs誌ウェブサイトに1月24日付で“How Sharp Power Threatens Soft Power”という論文を発表し、中ロではなく、米国内のシャープ・パワー騒ぎそのものに水をかけています。

 ナイによれば、「シャープ・パワーのようなことは、昔から行われてきたこと」であり、「シャープ・パワーに対抗するために、自分もフェイク・ニュースや違法手段をあえて用いようとするのは、自分で自分の品位を落とし、自由・公正・開放性という米国のソフト・パワーを自ら失ってしまうことを意味する」のです。その通りだと思います。

 別の言葉で言えば、この論説の筆者のWalkerが言いたいのは、「米国もシャープ・パワー発揮のための予算を増やせ」ということであり、ナイはそれに懐疑的だということです。Walkerが属するNational Endowment for Democracyはこれまでの諸報道、英文Wikipedia等によれば、レーガン大統領時代、CIAの肝いりで作られた民間団体で、その任務は議会が当時共和・民主超党派で設けた毎年約1億ドルの連邦予算を国務省とともに、民主化・人権向上運動NPO諸団体に配布して、途上国、旧社会主義諸国での民主主義の普及を促進することにあります。これら米国のNPO諸団体は(共和・民主両党とも、傘下に同種NPOを有する)、海外の反体制野党、あるいはこれを称する者達に資金を与えたり、デモ等によって政権を転覆するノウハウを指南することもあります。これは、その活動の対象となる諸国の政府から見れば、「米国のシャープ・パワー」に他ならず、ウクライナ等が混乱する一因を作ったと目されるものです。

 中ロは、この米国の宣伝攻勢に危機感を抱いて、自らもソフト・パワー、シャープ・パワーの展開を強化しています。筆者のWalkerはそれを口実にして、米国政府の対応強化を求めているのです。これでは、両国の宣伝・煽動機関間のマッチ・ポンプ・レースになってしまいます。

 トランプは、昨年国連総会での演説が示すように、強いアメリカを維持しつつも、他国のレジーム・チェンジを図って主権を冒すようなことはしない旨を明らかにしています。そのためか、レジーム・チェンジ路線諸勢力は息をひそめてきたのですが、「ロシアの米国大統領選介入」騒ぎに乗って、この1年の失地回復を図ろうとし始めたのではないかと思われます。

 日本としては、ソフトとかシャープとか「呪文」に惑わされることなく、米国で行われている議論の背後の諸勢力、その思惑、相互の力関係、それが合わさっての米国の対中、対ロ政策の方向性変化の有無を見ていればいいのです。

  
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