対して中国側は、今回の胡主席の訪米ショーに際し、米国民を絡め取るソフトパワー戦のための二つの「武器」を用意していた。
ひとつはご承知のとおり、チャイナマネーである。その額450億ドル。豪勢に米国産品を買い付けることで、オバマ大統領に「今回の契約は米国民23万人の雇用を支える効果がある」とまで言わしめた。しかし、このショッピングシーンが、米国市民の心なごます効果があったようには到底見えない。米国のネット上には、「あの大金は元々、米国人の財布から出ていったもの」などの冷めたコメントがあふれた。
カァと泣いて大金を落とし
米国キツネにさらわれる
中国側の対米ソフトパワー戦のもうひとつの武器は、以前このコラムで紹介した、「中国のよきイメージを伝える国家CM」(←クリックすると記事が読めます)である。胡主席の訪米中、タイムズスクエアの大スクリーンには繰り返し、この映像が流されていた。
しかし、これも米国人の心を捉えることに奏功したとは言い難いようだ。ジャッキー・チェンくらいはいざ知らず、ふつうの米国人にとっては見ず知らずの、中国人成功者の笑顔が延々と流され、「中国との友情」とメッセージされても何のことやらわからない。
仮に日本で同じCMが流されても同じ反応だろうが、そもそも成功した中国人というのは、中国側にとってしか意味をもたないキャラである。このCMを「独りよがり」と切って捨てた評もある。
一方の中国国内でも、この訪米ショーの模様は大々的に報じられた。ただし、主席が行く先々に、フリーチベットを叫ぶデモグループが現れたことや、米国の二大政党の議会トップが大統領主催の主席歓迎晩さん会をボイコットしたこと、あるいは共同記者会見で、米国の記者から「国内の人権問題をどう正当化するのか」という質問が飛んだ場面などは、もちろん、一切報道されなかった。
中国のメディアは、「米国と肩を並べるほどの大国となった中国」を懸命にアピールし、例によって馬鹿げた日本メディアの「直撃」に応える北京市民の一部からは、「中国は大国になった。誇らしい」というお約束のコメントが聞かれもした。しかし、ネット論客の間からはこの一連の出来事を冷笑するコメントも漏れていた。
筆者が直接見たのは、「アメリカ助けて何になる。中国人にも仕事がない」とか、「米中双方の指導者が考えているのは自身の面子だけ」というような内容であった。しかし、さらに辛辣に、「カラスがカァと泣いた瞬間、くわえていた450億ドルがポロッと落ち、それを米国キツネがさらっていく」と、主席を「カラス」にたとえた言まで見られたようだ。
折しも、チュニジアでネットの力による「ジャスミン革命」が起きるなか、従来は、ほぼ完全に統制下にあるとされてきた中国のネット言論の、こうした変化のほうにむしろ、「米中二強時代到来」以上の変化の兆しを予感させる。
アメリカの大豆を
買いまくる中国の意図は?
米中トップ会談に続いた米中大型商談については、もちろん日本でも喧伝された。そこでは、「航空機などの米国製品」という表現が目立ったという印象がある。しかし、今回の一連の米中商談で、むしろ航空機以上に注目すべき品目はというと、大豆である。