軍が群衆に銃を向ければ、大規模な混乱を招き、ムバーラク政権だけでなく、軍が特権を持つ体制そのものが崩壊する可能性がある。軍は利権・特権を残した形での解決を望むだろう。
軍が民衆の動きを押さえられないと認識し、弾圧するには大規模な流血が不可避と判断した時、さらに末端の兵士の服従が保証できないと判断した時は、軍の上層部内に、ムバーラク大統領の辞任を事態収拾の手段とし、混乱から国家・国民を救う救済者、対立の仲介者・仲裁者として登場することを目指すかもしれない。しかしムバーラク大統領は軍の指導部に対抗者が育つことを妨げてきており、現在のところ目立った指導者はいない。
2月1日の「百万人」デモ予定
1月29日の夜、カイロ中心部では一時的にデモの波が引いたように見えた。5日間のデモで疲労したためもあるだろうが、囚人が脱走し、各地で略奪が行われていると伝えられたことから、家族と財産を守るために帰宅したと見られる。しかし略奪を行うならず者の集団そのものが、秘密警察によって放たれたと広く信じられている(そもそもインターネット上では事前に予想され警告されていた)。略奪から身を守るためだけでなく、治安維持を口実に政権が強権支配を行うことが警戒され、一部の街区では自警団が組織された。
しかし1月30日の午後にはカイロでは一旦帰宅した群衆が再び中心部に集まり始め、31日未明まで残って気勢を上げている。抗議運動開始から一週間の2月1日まで、勢いを絶やさず政権打倒を目指すと見られる。
1月28日に切断されたインターネットは、米国などの強い批判もあり、外国の支援者の助けも借りて復活し始めている。読めなくなっていた野党紙のホームページが1月30日に復活すると、以前なら弾圧を恐れて言葉を選んでいたものが、全面的に体制の崩壊を目指す姿勢に切り替わっている。革命を予感させる紙面である。
1月30日の午後、F16戦闘機が低空飛行でカイロのタフリール広場を旋回して威嚇した。軍はデモに圧力をかけ始めている。
抗議運動の側からも、いずれかの時点で、軍が市民側につくのか、政権のために市民に銃を向けるのか確かめようと、圧力を強めていくだろう。流血の惨事か、政権を明け渡すかという、軍を中心としたエジプトの支配層にとって、二者択一の時期が近付いてきている。
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