性教育授業の導入は「恋愛」
――染矢さんは中高生向け、その保護者向けの性教育の講演を各地で行ってらっしゃいます。「性教育」というと聞く方が身構えたり緊張してしまったりということもあると思うのですが、その点ではどのような工夫をしていますか?
染矢:中高生向けの講演では導入に恋愛を持ってくることが多いですね。たとえば、「恋とか愛ってどういう気持ちになることかな」「人を好きになったとき、どんな気持ちだった?」と聞いてみたり。その後でデートDVの例について紹介して、こういうことは身近にもあるのかなと感じてもらいます。
――デートDVの例とは?
染矢:たとえば、「恋人が友達との約束よりも自分との約束を優先させることを強要する」とか、「恋人から他の異性とのやり取りをやめさせられた」とか。「コンドームをしない性行為を強要するのもデートDVだよ」と教えます。大学生に協力してもらい、実際のデートDVでよくある事例を盛り込んだ台本を作り、具体的なやりとりをイメージしてもらえるように聴いてもらっています。
――殴る蹴るのような暴力だけがデートDVではないということですね。
染矢:後半では、恋人がこういうことをしてきたときにどうするかを一緒に考えて、そのやり取りを再現してみます。「そういう言い方をされると怖いからやめてほしい」とか、「友達より恋人をいつでも優先させるというのはあなたの考え方だけど、私はそう思わないよ」とか。
――性教育でありつつ、恋愛の教育、心の教育でもあるんですね。
染矢:性感染症や避妊についてももちろん教えますが、最後の締めは「ハッピーな恋愛のために何が必要か」を考えてもらうことです。
「コンドームを使わない恋人、どうする?」を考える
――性感染症や避妊はどんなふうに教えるのでしょうか。
染矢:性感染症は、コップに入った水の交換ゲームをしてもらって、目に見えない感染症が広がっていく様子を疑似的に体験してもらいます。避妊については○×クイズを中心に講義をします。結構誤解している子が多いですね。「安全日がある」とか、「膣外射精すれば避妊できる」とか、そういう誤解を解く話をします。
――「ハッピーな恋愛のために」について、中高生からはどんな意見が出ますか。
染矢:コンドームのことを教えるので、「避妊をしっかりすること」と言う子もいますね。あとは、「相手の気持ちを考える」「自分の意見を伝える」「自分も相手も大切にする」「対等な人間性が大事だと思った」とか。
――相手のことを考えたら、コンドームを使うのは大事なことだよね、と。
染矢:講演を聞いた子どもが、自分でそこに落とし込めることが大事だと思っています。コンドームをつけないパートナーがいたらどうする?どうやって伝える?というテーマのディスカッションもあります。
――実践的なディスカッションですね。
染矢:男子は「コンドームを自分でちゃんと使う」「ない場合はやらない」。女子の場合は、「妊娠や病気が心配だからって言う」とか「責任とれるの?って聞く」という子もいるし、「なんて言ったらいいかわからない」という子もいます。ディスカッションの中で「友達はこう考えているんだ」と知って、それが刺激になればと思います。
――「なんて言ったらいいかわからない」というのはリアルな意見ですね。
染矢:印象としては、まだ恋愛経験がない子ははっきり「つけないならしない」と言える気がします。すでに恋愛経験や性体験がある子の場合、すでに(言いづらい状況になるまで)のめり込んでいることもあって、そうなる前に、教育として知る機会が一度あるといいかなと思います。