「恋人がいるいないで人の価値は変わらない」
――講演全体について、子どもからはどんな反応がありますか?
染矢:「知れて良かった」という意見は男女ともに多いです。男子の場合は、「相手の体を大事にしようと思った」と。性に関することは女性の方がリスクが大きいという話をするからだと思います。女子の場合、「自分の意見をちゃんと伝えることが大事」という反応がありますね。
――子どもから質問が出ることはありますか?
染矢:「モテたい」とか「恋人がほしいです」って質問が出ることがありますね。
――本書の中でも「モテたい」という男の子の悩みに「あすか先生」が答えていますね。
染矢:はい、本の中でも書いたのですが、「モテたい」っていうのは誰かに必要とされたいっていう気持ちだよね、と。そういう気持ちを強く持っているうちは、誰かに依存的になったり、相手を思い通りにしたいって気持ちが出て、うまくお付き合いできないことがあるよと伝えます。まずは自分が本当に大切にしたいと思う人ができるまで、内面を磨いたりしたらどうかな、と。パートナーがいるいないで人の価値は変わらないよ、ということも言います。
――パートナーの有無で人の価値は変わらないって本当にその通りだと思います。大人でも「モテるほうがいい」って価値観をすり込まれている人も多いと感じます。
染矢:男子の方がヒエラルキーがあるというのはよく聞きます。恋人がいたり、性経験がある子のほうがヒエラルキーが高い、みたいな。まだ10代なのに「童貞のくせに」って蔑むようなこともありますね。
――性暴力について話すことはありますか?
染矢:被害に遭ったときに、ワンストップセンターなどの相談窓口があるとか、緊急避妊に公費助成の制度があるという情報を紹介します。あとは、「自分がイヤだと思ったらイヤと言っていい」ということと、「(恋人が)性的なことがイヤと言うのは愛情がないわけではないよ」というのを併せて伝えます。後者は主に男子向けのメッセージです。
2000年代から後退した日本の性教育
――2000年代から日本の性教育は後退し、教育関係者の中では危機感を覚えている人も多いです。保護者の方たちの中では、あまり知られていないのかなと。
染矢:そうですね。保護者向けの講演で、義務教育では受精に至るまでの過程を扱わない規定があるから教えないというと、驚かれます。学校と家庭で連携してやらないとっていう声が強いと感じます。
――いくらでも検索できる時代で、なぜ義務教育でわざわざ性行為を隠すのか不思議です。
染矢:1980年代に「エイズパニック」と言われる状況があり、日本でもエイズが広がっていく危機感が強まった時期がありました。それから日本の性教育が普及していったのですが、2000年代の初めに七生養護学校の事件がありました。
七生養護学校は特別支援学校で、人形を使って性器の名称を教えるというような性教育をしていたんですね。これは発達に問題がある子の性被害、性加害を防ごうと、現場の先生が試行錯誤しながらやっていたことです。それが過激だと指摘が入って、メディアもセンセーショナルに報じました。学校で働いていた職員が処分されることになって、それから性教育について学校が慎重にならざるを得なかったという経緯があります。
※校長や教員に対して2003年に処分が行われたが、その後の裁判で七生養護学校側の勝訴が確定し、処分が取り消されている。今年3月に報じられた足立区の性教育を問題視した都議は、七生養護学校に関わった都議のひとり。