北朝鮮の金正恩国務委員長に対するイメージが、南北首脳会談を契機に韓国で好転している。それまで持たれていた「冷酷な独裁者」というイメージを裏切る演出を仕掛けた金正恩委員長の思惑通りだろう。これまでも指摘してきた通り、今年に入ってからの北朝鮮の対話攻勢は数年前からのシナリオに従って企画された可能性が高い。米朝首脳会談でも、世界を驚かせる演出によって最大の成果を上げようとするはずだ。金正恩委員長の交渉能力を侮ってはいけない。
文在寅大統領の支持率は8割超え
韓国ギャラップ社が5月2、3の両日実施した世論調査によると、南北首脳会談の結果を「よかった」と評価する人は88%に達した。「よくなかった」と答えた人は5%だけだ。文在寅大統領の支持率も前週比10ポイント増の83%にまで上昇した。支持理由(複数回答)は南北首脳会談が35%と最多だった。
文在寅大統領は10日で就任1年となる。この1年間の国政運営について分野別に評価を聞く設問でも、対北政策については83%が「よかった」と評価した。次に評価が高かったのは外交で、「よかった」が74%だった。その他の政策への「よかった」という評価は、福祉が55%、高官人事48%、経済47%、教育30%。対北と外交への評価の高さが際立った。韓国の外交はもともと日米中露という周辺4大国(韓国では「四強」と呼ぶ)との関係を主軸とせざるをえないので、特にここ1年は北朝鮮情勢と密接に関連してきた。南北首脳会談直後ということを勘案しても、北朝鮮に関連する政策への支持は高いと言えるだろう。
こうした状況に不満の強い保守派の一部からは「世論調査は実態を反映していない」という批判が出る。朴槿恵前大統領罷免という混乱で痛手を負った保守派は元気を失ったままなので、世論調査に答えること自体を拒否する人が多いという主張だ。だから文在寅大統領への支持が高めに出るし、対北政策への評価も高くなるという理屈になる。
政界でも保守派が分裂して勢力回復の見通しすら立たないのは事実だ。しかし、世論調査をめぐるこうした主張が妥当かというのは別の問題だろう。
同社の調査では、自らを「保守」「中道」「進歩」のどれだと考えるかも聞いている。比較対象として朴槿恵前大統領のスキャンダル発覚直前となる2016年9月初めの調査と比較してみよう。この設問に回答した人数は、「保守」295人→207人(前者が2016年、以下同)、「中道」264人→292人、「進歩」245人→347人だ。2016年に比べて「保守」の比率が減り、「進歩」の比率が増えている。ただし、大統領罷免を巡る混乱の中で保守派は大混乱に陥ったし、適切に対応できなかった保守政党に愛想を尽かしたという元支持者は多い。それを考えると「保守」を自認する人の減少は当然だと言えそうだ。「保守派は世論調査に答えない」という主張が一部に当てはまる可能性はあるが、それが調査結果に大きな影響を与えるほどかは疑問である。