上記発言は、米国がNATOに対して求めていることをよくまとめた内容である。すなわち、国防費増額による負担の分担、ロシアの脅威への対応、中東における協力である。
まず、NATO加盟各国が2014年のウェールズ合意を遵守し、国防費をGDP比2%まで引き上げるよう求めることと、米国がNATO条約第5条に定められた集団防衛にコミットし続けると約束することは、NATO関連の会議やNATO加盟国との会談では決まり文句のようになっている。トランプ大統領が就任当初、NATO加盟国が負担を分担しなければNATO条約第5条に米国がコミットしないとも受け取れる発言をしたのは、不適切であった。しかし、その後の軌道修正、当局者の努力により、適切な方向に向かっているように思われる。NATO加盟国が国防費を増やしてNATOの抑止力を高めること自体は、当然結構なことである。
ロシアへの脅威については、共通の認識ができているように思われる。ロシアが英国のソールズベリーで元スパイ父娘を旧ソ連製の化学兵器で攻撃したとみられる事件以降、西側諸国は続々とロシアの外交官を追放するなど結束した対応をとり、米国は対ロ制裁を強化するなど、ロシアに対する厳しい姿勢で一致するようになった。また、リチャードソン米海軍作戦部長は5月4日、オバマ政権下の2011年に解体された第2艦隊を復活させると発表している。第2艦隊は、米東岸から欧州西岸にかけての大西洋北部を担当するもので、その復活は、同海域におけるロシア海軍の潜水艦部隊を中心とする活動活発化に対抗する措置である。
中東関連では、上記発言では、テロ対策しか触れていない。「我々の最も重要な二国間パートナーシップのいくつかがNATOの中に含まれている」と述べているのは、シリアのアサド政権による化学兵器を罰するために、4月に米英仏が共同で空爆をしたことが念頭にあると思われる。ポンペオ長官が中東を重視していることは、この会合に引き続いて中東を歴訪したことからも明らかである。ただ、中東で一番の問題はイラン核合意である。これに関しては、ポンペオ長官は、質疑応答の中で「イランの問題についても話し合った」と述べるにとどまっている。5月12日にトランプ大統領がイラン核合意から米国が離脱するか否かを発表する予定を前に、具体的な話ができなかったのはやむを得ない。しかし、欧州側はイラン核合意の継続を強く求めており、今後の米欧間の大きな争点となろう。
上記発言では、最大限の圧力作戦の成果を強調するなど格別目新しい内容ではないものの、北朝鮮問題にも言葉を多く割いて言及している点も注目される。なお、北朝鮮の核・ミサイル問題については、ストルテンベルクNATO事務総長も、今回のNATO外相理事会に際しての記者会見で、「北朝鮮の行動に真の変化があるまで制裁は続けられるべきである」と述べている。
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