2024年11月22日(金)

田部康喜のTV読本

2018年5月23日

 NSAの元分析官のカーク・ウィービーは次のようにいう。

 「レーガン大統領は、日本が傍受したテープである、ということもいうべきではなかった」

 日本が傍受したソ連の秘密の電波帯は以後使われなくなり、諜報活動に支障をきたすことになる。

 稚内分遣所で問題のソ連の音声を傍受していた、佐藤守男は語る。

 「極論すれば、アメリカの出先機関だった。日本はごく自然に、いつものようにアメリカに情報を渡した。ここ(稚内分遣所)はアメリカ、日本のなかのアメリカだ」

「国家が一般市民の情報を手に入れる」

 日本が米国と一体化して、世界規模での諜報戦に加わっている実態についても、「ジャパン・ファイル」から浮かび上がる。

 「CROSSHAIR」作戦は、世界規模で通信を傍受するものである。1990年代から2000年代に、米国が主導した日本のかかわりの詳細は明らかになっていないが、米国の軍事予算が削減するなかで、「サード・パーティ」の諸国にそれを補完する能力と意欲がある、としている。米国は関連25カ所を閉鎖せざるを得なかったのである。

 この作戦が展開されていたと同じこと、米国は対イラク戦争とアルカイダの掃討作戦を展開していた。「ジャパン・ファイル」は、そのころ日本にある横田基地において、日本の費用負担によって新型の20種類のアンテナが開発され、通信傍受に役立った、としている。機器の開発に660万ドル、その人件費37万5000ドルに上っている。日本が国内にある米国の軍事基地向けに編成している、いわゆる「思いやり予算」の一部と推定される。

 NSAに対して、日本の諜報機関・DFSは2012年、新たに通信傍受のサイバー化に成功したと報告している。インターネットによる情報収集の体制である。これは、米国と一体化して進められており、「MALLARD」作戦といわれている。

 専門家は、この体制とは衛星通信を経由しているインターネット上の情報収集ではないか、と推定している。かつ、その諜報拠点は、福岡県にある大刀洗通信所である。大型のドームに覆われた6基と最近までに建設された5基のアンテナがそれである。これらのアンテナは、通信衛星200機を追尾することが可能である。

 アジア諸国は、海底ケーブルなどの光ファイバー網によるインターネット通信とともに、衛星経由の通信が多い地域である。軍事・安全保障情報のほかに、一般市民の情報も飛び交っている。

 元HAS職員のウィリアム・ビームは次のように懸念を表明する。

 「国家が一般市民の情報を手に入れる」

 ロシアに亡命中のスノーデンが登場して、「ジャパン・ファイル」のなかの次のような文章に警告を鳴らしている。衛星経由の情報を収集する「MALLARD」は、1時間に50万回の情報収集をおこなっているが、安全保障上の危機に関する情報は1回だけだった。それは、防衛省のシステムに対する攻撃だった。

 スノーデンはいう。

 「50万回の残り49万9999はいったいなんなのか。日本政府は一般市民の情報は読むことはない、というだろう。しかし、何を収集して何を読んでいるかは彼らが決めているのである」


  
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