しかし、大きな争点になるのが、3月1日ついに公認されたイスラーム政党「ナフダ(復興)」党の動きである。世俗主義を貫いてきたチュニジアで、政治の中にイスラームをどう取り込むかは大きな争点になるはずである。というのも今革命の進行過程では有力な政治集団・イデオロギーが現れない一方、次第にチュニジアの「アラブ性」と「イスラーム」は確実にチュニジア人の心を捉えるようになり――個人によってとらえ方の質(とくにイスラームについて)に違いがあるにせよ――、こうした潮流に呼応して「ナフダ」と党首ラーシド・ガンヌーシーの支持が広がっているからである。第一党になってもおかしくない勢いである。党首ガンヌーシーのソフトな語りが人気を集めている。ナフダはシャリーアに基づく国家建設を正面からうたわず、トルコの「公正開発党」(政教分離を旨とするイスラーム政党)のような政治体制をめざすとも言われるが、エジプトのムスリム同胞団(政教一致を旨とする政党)に近い、とも言われる。ガンヌーシーは、現行憲法(第1条)「イスラームはチュニジア国家の宗教である」の規程に従った政教一致ではあるが、この中身については立ち入った説明を避けている。重婚(いわゆる4人妻)については禁止する、と明言している。
しかし、2月18日、ポーランド人神父Marek Rybinski(カトリック系サレジオ会が運営する私立小学校の教師・経理)の殺害事件は、イスラーム勢力に対する警戒心を強めた。内務省はこの学校に勤める建具師を逮捕、金銭目当ての犯行だと説明したが、海外メディアはイスラーム過激派の犯行として報道した。真相は不明である。選挙になれば、人権団体や世俗派は反ナフダのキャンペーンにこれを使うだろう。なお、この学校はマルタ共和国のカトリック系サレジオ会が運営する私立小学校で、チュニスのマヌーバにある。生徒数約700名。
すべてはチュニジアの
ジャスミン革命の行方にかかる
チュニジアはいま平穏な内に改革が進んでいるように見える。暫定内閣も市民の要求を受け入れる姿勢を示しているからである。有力な野党PDP(進歩民主党)やUGTT(チュニジア労働総同盟)などが軍の政治介入を断固阻止すると主張し、またベン・アリーを国外に亡命させ、市民に銃口を向けるのを拒否したラーシド・アンマール陸軍将軍などの意向が国民に支持されている。選挙法の改革の機関に多くの市民団体や個人が参加していることもおおむねジャスミン革命を成功させた市民運動の流れに沿ったものである。エジプトが現在、軍最高評議会によって全権が握られているのとは異なり、チュニジアでは、アラブ諸国では初めて、市民主体の民主化に向けての改革が進みつつある。イスラームがこれにどうからむか。
ジャスミン革命がエジプトのタハリール広場の若者たちを勇気づけた。チュニジアの市民主体の民主化が成功すれば、エジプトの市民に活力を与え、軍支配を後退させるはずである。アラブのすべての民主化革命はチュニジアのジャスミン革命の行方にかかっているのである。
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