2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年4月18日

 中央政府は、原発事故が明らかになった4日後の3月16日、新たな原発の申請に対する批准を、しばらくの間全面的に停止すると発表。計画中のものも含めたすべての原発施設の安全点検の見直しを国務院の名で指示している。

脱原発はさらなる物価上昇へとつながる

 だが、このことが中国の“原発シフト”の軌道修正を意味するのかといえば、全くそうではない。そのことは、開発計画を所管する国家発展改革委員会(発改委)解振華副主任が、会見で「原発推進に変わりない」と発言していることからも明らかだが、何よりも電力需要が毎年10%以上の勢いで伸びている中国にとって、原発を諦めるという選択肢など最初からないのである。

 1991年に中国が独自設計した原発第1号(秦山原発)が誕生して以降、現在までに稼働している原発は、発改委の資料によれば全部で14カ所。そして2020年までの稼働を予定しているのを含めて28カ所となる予定だ。これにより総発電量に占める原発の割合を現在の2%から4%にまで引き上げる方針だが、批准の段階のものも含めれば全国で100カ所を上回り、すべてが稼働するころには10%を超えると考えられている。

 脱原発など絵空事だと語るのは、エネルギー事情に詳しい国務院の関係者だ。

 「昨年、長江を襲った大洪水によって、三峡ダムの限界が明らかになったように、水力発電には未来がない。風力、太陽光などエコ・エネルギーは積極的に推進しようとしているが、悔しいかな、発電能力があまりに小さい。そうなると石炭、石油、天然ガスに頼るしかないが、これも限界だ。石炭は熱効率の悪い低品質のものまで焚いていて、環境汚染への影響が深刻だ。さらに石油・天然ガスは世界での争奪戦が激しく、これ以上やれば国際社会での摩擦が懸念される。しかも中国は、世界最大の二酸化炭素排出国の一つとの批判にも気を配らなければならないのだからね」

 新規の原発建設にアゲインストの風が吹く現状に対し、この風潮が進めばいずれ「電気料金の値上がりは避けられない」(国際エネルギー機関=IEA)との指摘も出る。そうなれば中国が最も恐れる物価上昇はさらに加速される。中国にとって脱原発は不都合なことばかりなのだ。
 


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