2024年12月22日(日)

解体 ロシア外交

2011年4月26日

 旧ソ連で1986年4月26日のチェルノブイリ(現在はウクライナ)原子力発電所で大規模な事故が発生してから25年の節目を迎えるロシアでは、隣国・日本で福島第一原子力発電所(以後、福島原発)の事故が発生したことで、原発問題への関心がさらに高まっている。3月の拙稿で述べたように、漁夫の利を得た側面も大きいとはいえ、ロシアは日本の震災に対し、深い哀悼の意を表明し、極めて迅速に多面的かつ大規模な人的、物的支援を行い、昨年来の外交関係の悪化を払底するような友好的姿勢を見せた。また、政治家たちやメディアは日本の地震への準備や救助体制、国民の連帯を称賛し、そして原発事故に対応して危険を顧みずに作業を続ける者たちを英雄だとして敬意を表していた。

 一方、ロシアは福島原発事故による放射能拡散を受けやすい隣国であることやチェルノブイリの原発事故の経験者という立場から、日本政府や東京電力(以後、東電)の対応に対してはかなり辛辣な意見も見られる。

 そこで、本稿では、福島原発事故に対し、ロシアがどのような反応を示したのかということを考えてみたい。ただ、筆者は原発については全く不案内であり、ロシア側の主張が正論であるのかどうかを評価する力をもたない。また、ロシア側が主張していることが全て事実であるという保証も全くない。

 筆者は、福島原発事故に際し、不眠不休で努力している全ての方々に言葉では言い尽くせない感謝と敬意を感じており、また避難生活を余儀なくされている方々には心からお見舞いを申し上げたいと思っており、ロシアが主張していることにより、誰かの責任を問うつもりは一切ない。

 ただ、ロシアは今後も末永く付き合っていかねばならない隣国であり、その隣国がこういう意識を持っている、ないしロシア国民に持たせようとしている、ということを日本が理解しておくことは重要であるはずだ、というのが本稿の趣旨である。

ロシアの国内外の原発計画は変わらず

 ロシアは3月12日に福島原発事故について一斉に報じ、日本への渡航自粛勧告が出された(4月18日に解除)。当局はロシア時間11日夜に極東地域での放射能監視を強化するよう命じ、緊張が高まったが、当初は、ロシアの専門家も福島原発事故は、チェルノブイリとは全く性格が異なり、あまり心配はいらないというような論調でコメントしていた。

 そして、14日に、プーチン首相は、福島原発事故を受けて、ロシアの原発計画を変更する予定はないと述べた。ロシアでは現在32基の原発が稼働しており、発電量における原子力発電の割合は約16%だが、今後は約40基まで増設し、発電割合を2030年までに25%~30%に拡大する計画を進めていた。ロシアにとって原発削減は、電気のみならず、核兵器など軍事分野にも大きなダメージを与える。ロシアは原発を推進し続けるしかないのだ。

 また、プーチン氏は翌15日には国営原子力企業ロスアトムのキリエンコ総裁やシマトコ・エネルギー相らと会談し、ロシアは地震地域に原発を持っておらず、今後の建設予定もないが、あらゆる事態を想定して原発の現状について緊急に総点検し、今後の研究の展望についても検討してあわせて一か月以内に報告するよう命じた。

 そして、3月24日には、国内のすべての原発に対し、想定外の強い地震に見舞われた際の耐久力を試すために「負荷試験」を行い、合格しなかった場合は、廃炉や取り換えなどの措置を取ることも示唆した。ちなみに、ロシア国内の稼働炉の多くは加圧水型原子炉で、福島原発が採用した沸騰水型より安全性が高いとしている。


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