2024年5月7日(火)

解体 ロシア外交

2011年4月26日

ロシアへの汚染拡大への危惧

 また、ロシア外務省は、日本が低濃度の汚染水が事前通告なしに海に放出された問題について不快感を表明する声明を発表した。確かに、日本は4日に汚染水の放出を開始し、ロシアがそれを知ったのは6日であった。だが、本件については、ロシアにも非がある。日本政府は、放出開始の数時間前に、在京大使館向けの説明会を開催していたが、ロシア(と韓国)は欠席し、その後、放出を通知するファックスやメールが一斉送信されたが、その時点ではもう放出は始まっていたというのが実情であり、日本からすれば、一方的に批判をされるのは釈然としない状況である。だがロシアは、政府と東電に対する不信感を表明し、情報透明化と汚染水放出の停止を求めた。ロシアの環境活動家や専門家は、汚染水が「高濃度」である可能性があるとし、極東における水産業に影響を与えかねないとして、ロシア極東の海水に汚染が広がることを危惧している。

 ロシアは放射能の監視を強化し続けているが、それはロシア領内にはとどまっていない。震災後、3月17日、21日、29日の3回、電子偵察機や戦闘機などのロシア軍機が日本海上空の領空侵犯ギリギリともいえる位置を飛行し、自衛隊の戦闘機が緊急発進する事態が起きていたが、ロシア側は、それを放射能レベルのモニタリング調査のためだと主張している。本件について、日本はロシアからの支援を理由に問い詰めることはせず、他方、ロシア側は当然の権利であるというような態度をとっている。なお、これまでのロシアの一連の調査では異常な結果は出ていないという。

 それでも、禁輸政策も厳しく取られるようになった。3月24日には、日本に乗り入れているロシアの航空会社に対し、成田空港で給油を受けないように政府が命じていたことや、福島、茨城、栃木、群馬の農作物の輸入を当面禁止したことが明らかとなった。

 そして4月に入り、ロシアは日本の水産関係242社(ロシアが登録している本州のすべての会社だとされる。昨年のロシアの日本からの海産物の輸入は5万7千トンで約5億6000万円相当)からの海産物の輸入を一時制限すると発表し、事実上の禁輸措置に出た。また、ロシア漁船が当面、日本近海に出漁しないことも表明された。

国際原子力事故評価尺度「レベル7」の波紋

 さらに、4月13日には、経済産業省原子力安全・保安院が福島原発事故の国際原子力事故評価尺度(INES)を、チェルノブイリ原発事故と同じ「レベル7」と認定したことについて批判が沸き起こった。たとえば、ロシアの原子力公社・ロスアトムのキリエンコ総裁は、「レベル7」の認定はおかしく、自分たちの評価では「レベル6」にも達していないと述べた。そして、日本政府が厳しい評価を定めた理由について、事故のレベルを高くすることで、事故よって生じた多額の保険金の支払いなどを逃れようとする財政的な意図があるのではないかと批判している。

 ただ、本件については、ロシアが原子力発電を推進する立場にあるということを忘れてはならない。ロシアは原発大国であり、既述のように諸外国での原発建設の支援も継続する意向を示している。そのような中で、原発の危険性が過度に騒がれることはロシアの国策にとって有益ではない。この基準値の評価については、ロシアのみならず、多くの国や国際組織が「チェルノブイリとは全く異なる」として異論を述べているが、それらの多くがフランス、ロシア、中国、国際原子力機関(IAEA)など原発推進派の国や原発と関わりの深い組織であることには留意すべきである(ただし、世界保健機関(WHO)など原発に関係がない組織も含まれている)。

 逆にいえば、「原発は危険ではないが、今回の福島での事故は、日本の政府と東電の対応が悪かったからこそ発生した」という姿勢を貫けば、ロシアの原発政策への影響もより小さく抑えることができる。このように、本問題を考えるうえでは、ロシアの国益にかかわる諸問題を加味することが重要であり、ロシアの対応も状況によって変わりうるということを日本側は留意しておくべきだろう。


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