ロシア側の対応と論調の硬化
ロシア政府は3月12日に素早く、「福島原発ロシア対策本部」を打ち立て、本部長にアスモロフ氏(ロスエネルゴアトム第一副総裁・クルチャトフ研究所副所長)を任命した。
そして、ロシア側の論調は徐々に日本政府や東電に対して批判的になっていく。
3月15日には、チェルノブイリ原発事故の汚染除去作業の中核を担っていたアンドレイエフ氏が「福島原発は、安全より経済的利益を優先させた具体例」だと批判した。たとえば、使用済み核燃料プールで燃料を高い密度で保存した場合、水がなくなると火災発生が起こるらしいのだが、4号機で発生した火災の原因はそれだったというのである。
国営原子力企業ロスアトムの専門家も「東電の初期対応がまずかったからこそ、危機が次々拡大している」と、東電を批判した。本来であれば、事故当時に放射性物質を含んだ水蒸気を排出し、一刻も早く原子炉の水位を保つ必要があったが、東電は時間がたてば何とかなると思って放置したに違いないというような意見である。
また、原発事故対応の支援のために来日していた前出のアスモロフ氏は、帰国後にプーチン首相に直々に報告をし、日本政府と東電に対して多くの批判を述べている。
まず、日本が事故発生の理由を明らかにしていないということで日本の隠蔽体質を批判しており、また最初の2日間は原発が電源と水がなくとも持ちこたえたにもかかわらず、結局爆発に至ったのは、東電が水の注入を怠ったためだとその点も強く批判している。また。日本の複雑で硬直的な官僚的運営モデルにより、事故への対応が遅れたと批判し、ロシア人なら5分で決定したり、即座に実行(たとえば日本は電力供給に9日間かかったが、ロシアならば即時に対応できたという)できることを、日本人は現場から離れた場所で委員会を立ち上げ、会議を積み上げることが必要であり、意思決定できる責任者が一人しかいないので、意思決定に極めて時間がかかるために状況が悪化したというのだ。責任者の所在をはっきりさせ、現地で意思決定がなされることが重要だと主張している。
また、ロシアの原子力専門家が支援のために来日した際、日本側の「良くわからない理由」で入国が遅れたのだが、これは、日本が外国の経験や助言を受け入れることが、日本の弱みを見せることになるとして躊躇したのだとも批判している。ロシアは日本に対し、いくつかの助言をし、ヘリコプターによる散水、消防車を建物の近くに近づけて放水することなどについては日本が受け入れたと述べている。また、野党経験が長い民主党の危機管理能力のなさについても批判をしている。
そして、4月に入ると、チェルノブイリ原発元副所長のコワレンコ氏も、福島原発は地震や津波で壊滅的な被害を受けなかったにもかかわらず、東電の対応の遅れが被害を拡大させたと批判を述べた。また、日本政府と原発の専門家は情報を軽視し、迅速な対応と意思決定を怠ったとし、本事故はチェルノブイリ原発事故と同じく人災であったと、政府に対しても厳しい意見を表明している。
ロシアの専門家は一様に、日本政府の無責任体質を批判する。原発という国家レベルの大きな話の責任を東電に押し付けず、政府がもっと前面に出てきて、事故の処理に当たるべきだという。特に、いま重要なのは、閉鎖的な冷却システムを早期に構築することであるが、それは東電レベルでは不可能で、世界中の技術や知識を投入する必要がある。その意味でも、政府が解決を主導しなければならないというのである。そして、そもそも地震や津波の懸念がある場所に建設をするべきではなかったという意見も強くなっている。