Washington Files

2018年7月2日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

非核化に容易に踏み切れない別の事情

 さらに金正恩氏にとって、非核化に容易に踏み切れない別の事情がある。

 それは、同氏が金正日氏から権力をバトンタッチされた翌年の2012年5月、自らの指導の下で憲法改正に踏み切り、「金正恩国防委員会議長はわが祖国を政治的イデオロギー的な強靭な国家、核保有国家、そして不屈の軍事国家へと移行させた」との文言を盛り込んだ前文に書き換えさせたことだ。

 この憲法前文の修正は、形式的とはいえ、北朝鮮の最高意思決定機関である労働党中央委員会全員会議で採択されたとみられるだけに、新たに内外に向けて宣言した「核保有国家」という公式な立場を今の時点ですぐに撤回することは極めて困難と判断される。

 こうしたことから、Cui Lei氏も指摘しているように、北朝鮮は究極的に、核廃棄ではなく、「インド・モデル」の道を模索することも否定できない。

 インドは核実験を成功させ核保有国家と成った後、国連などの場を通じ自国の厳格な「核非拡散体制」をアピール、国際世論の批判をかわすことに成功した。同様に、北朝鮮も今後、米政府との間に交わした「非核化」について中国やロシアなどの理解を得ながら時間稼ぎし、「核保有」を既成事実化させるともに、国際社会に対して“融和外交”に転じるというシナリオだ。

 このほか、すでに推定30発の核爆弾を保有し、今後いつでも量産できる体制にある北朝鮮の場合、きわめて小規模にとどまっていた核兵器開発を断念した南アフリカやリビアなどと異なり、実際に非核化に着手する際の困難な技術的問題も指摘されている。

 過去に北朝鮮の核施設を視察したこともある米スタンフォード大学ジーグ・フリード原子物理学博士らの研究チームによると、核廃棄に先立って特定すべき対象となる北朝鮮の個別の核開発計画および具体的活動内容は「22項目」あり、これらすべてに終止符を打つには「最低5年から10年」を要するという。

 この点、ポンペオ国務長官は先に記者会見などを通じ、北朝鮮の非核化達成のめどについて「2年半以内」と期限をつけていた。これは明らかに、トランプ大統領が再選をめざす2020年11月の大統領選挙を念頭に置いたものにほかならず、北朝鮮側と事前に廃棄のための工程について刷り合わせたものでも何でもない。たんなる政治的意思表示に過ぎない。

 こうした中、米NBCテレビは6月29日、北朝鮮が最近、国内の複数の秘密施設で、核兵器に使用する核燃料の増産に乗り出している事実を米情報機関が把握している、と報じた。もしこれが事実とすれば、北朝鮮は米側が期待するかたちの非核化に取り組む意思がないことを示すものであり、今後論議を呼ぶことになりそうだ。
 
 一方、ポンペオ長官は早ければ7月6日に平壌を訪問し、北朝鮮政府当事者と非核化のための具体的プロセスについて協議することになっている。

 果たして、今回自ら3度目の平壌入りで、実のある成果を具体的に引き出すことができるのか、あるいは手ぶらで帰国の途につくことになるのか、国際的関心が高まっている。

  
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