2024年4月16日(火)

ちょっと寄り道うまいもの

2011年5月31日

搾った竹糖を煮詰めて白下糖を作る。何度も釜を移し、カメで結晶化させる

 近隣の農家の老人たちが作ってくれているという竹糖を、製糖所で搾る。煮てアクを取る。さらに煮つめていくと、やがて、固まる。白下糖〔しろしたとう〕となる。黒砂糖のようなものだ。それを「研ぐ」ことで、和三盆となる。

 砂糖の主成分はショ糖であるが、それに糖蜜が混じったままの状態が、この白下糖である。そこから遠心分離機のような機械を使って完璧に精製してしまえば、ふつうの白糖になる。そうではなくて、手水をつけながら練る、つまりは研ぐ作業を繰り返し、程良く糖蜜を抜くという作りをしたものが和三盆なのだ。純水よりも、ミネラルをほどよく含んだ水の方が旨いのと相通じるか。

 この「研ぐ」熟練の作業だが、以前、その技に圧倒させられた職人の坂東千代吉さんは残念ながら亡くなっていた。九二歳の大往生。その少し前まで現役だったとか。

 しかし、幸いなことに、息子の永一さんが会社勤めを辞めてのち、父親の見習いを始め、引退後は後を継いでいた。岡田社長も認める名人の後継者。

 その作業をまた、ゆっくりと眺めさせてもらった。薄暗く、静かな作業所の中。手水をつけ、揉むように捏ねるように研ぐ。そして、また、麻布に包まれ、「押し槽」に入れられ、木に縄で石をつるした天秤状の重石で圧力をかける。そのような工程を通して、糖蜜が抜けていく。言葉は悪いが、太陽の下で働きづめで日焼けしていた娘が、垢抜けたお嬢様と化していくところを見ているようだ。『マイ・フェア・レディ』のような物語を見ている気分になる。

 江戸時代まで輸入しかない贅沢品であった砂糖。それを試行錯誤の末、この地で、あまつさえ、独自の美意識と美味に作り上げていった、その歴史など想うと熱くなるものがある。

 田舎道を散策するのもいい。併設された売り場で、お茶と共に試食させてもらうのもいい。

 閉塞感漂う、今のような時期だからこそ、日本の原風景のような田舎と、そこで育った誇るべき独特の文化を味わいたい。自分をリセットして、日本を見直す旅。
 

■岡田製糖所
山陽新幹線岡山駅から快速マリンライナー、特急うずしおを乗り継ぎ高徳線板野駅へ。徳島バスで鍛冶屋原車庫下車、徒歩約15分
徳島県板野郡上板町泉谷字原中筋12-1 ☎088(694)2020
営業時間/9時~12時、13時~17時
定休日/土曜・休日

◆ 「ひととき」2011年6月号より

 

 

 

 

  

 
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