2024年11月24日(日)

WORLD CURRENT

2011年5月26日

震災に原発事故で、人々の関心が国内にばかり集中している日本。
しかし世界経済をみわたせば、重大な地殻変動が起きつつある。
欧州や米国では財政赤字の拡大に歯止めがきかず、財政金融危機が深刻さを増し、
新興国のインフレと資産バブルは、経済の減速を臭わせている。
内にばかり視線を向けるリスクに、早く気づかなければならない。

 ポルトガルは4月に欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に金融支援を求めた。財政金融危機が悪化し、このままでは国家破綻に陥りかねなかったからだ。放漫財政でギリシャが、金融機関破綻でアイルランドが行き詰まり、EUとIMFに駆け込んだのに続いて、欧州では3カ国目だ。

 EUが発表した2010年の財政赤字は、ポルトガル、ギリシャともそれまでの見通しを上回った。相次ぐ国債格下げで投資家の信認は完全に失墜し、財政資金のやり繰りも綱渡りが続いている。市場関係者が身構えているのは、ギリシャの債務リストラだ。債務リストラとは、それまで発行している国債の返済を遅らせるとか、元本をカットするといった意味だ。

 そうした措置を織り込む形で、国債の相場は大幅に下落(利回りは上昇)しているが、ギリシャに大量の資金を貸し付けているドイツの当局者が言及しだしたことで、にわかに現実味を帯びてきた。こうした債務リストラはギリシャ一国で済むはずもない。アイルランドやポルトガルにも飛び火するのは避けられない。

 危機が続く欧州の債務国を尻目に、欧州中央銀行(ECB)は4月にリーマンショック後初の利上げに踏み切った。原油や食料価格の高騰に伴ってインフレ懸念が出てきたというのがその理由だ。確かに足元の消費者物価上昇率は2%台に乗せ、ECBが目標とする「2%弱」を上回っている。このため、利上げは一回限りでは済まず、今後も段階的な金利引き上げが予想されている。

 それにしても、南欧を中心に財政・金融危機が募り、金融救済策を実施している最中の利上げである。これでは運転中にブレーキとアクセルを同時に踏むようなもので、欧州経済の迷走は避けられまい。それでも経済が失速を免れているのは、ユーロ安を武器にした輸出攻勢だ。有卦(うけ)に入っているのはドイツで、中東やアジアで自動車や機械の輸出を伸ばしている。

 フランスも同様だ。福島原発事故で原子力産業最大手の仏アレバ社の活動が目立った。汚染水処理技術を日本に売り込んだが、アレバ社の主力事業は原発のシステムまるごと。日本の信用失墜を奇貨として、新興国に自らの原発を売り込もうと虎視眈々としている。欧州では独仏やオランダなど輸出で稼げる国とそうでない国の亀裂は、ますます深まっている。

米国の「8月危機」

 米国に目を転じると、連邦準備制度理事会(FRB)は昨年11月から実施している追加金融緩和(QE2)を今年6月末まででひとまず打ち止めにする方針を決めた。だが、ECBと違って金融の引き締めに舵を切るわけではない。カギとなるのは、長期国債のロールオーバー(継続投資)だ。

 ロールオーバーとは要するに、7月以降に償還期限が来る国債について、償還資金をもって継続的に国債を購入するというものだ。国債を継続投資すれば、米政府の資金繰りが窮屈になることはない。しかも、FRBのバランスシート(保有資産)の減少を防ぐことができる。


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