米英を中心に、G8が中国への立ち位置を変え始めたことに、お気づきだろうか。
駆け引きの舞台は中東だ。G8は民主化を働きかけ、経済援助という飴玉も用意。
米国の対テロ戦争を尻目に、中東やアフリカの独裁政権と手を握り、
巨利を貪ってきた中国から利権を取り戻そうと、動きつつあるのだ。
潮目の変化に、日本は乗る船を間違えてはならない。リーダーシップが問われるが……。
5月26~27日の両日開かれた今回のG8サミット。発生後2カ月以上たっても事態収束のメドが立っていないことから、日本のメディアは依然として原発問題一色だが、それでは今回のG8サミットの画期的な意味合いを見逃してしまう。それは、2001年の米同時多発テロ以降、低下する一方だった先進国が影響力を回復しようとする試みなのである。その主役はサミット議長国だが支持率低迷に喘ぐサルコジ仏大統領ではなく、オバマ米大統領だ。
サミットを前にオバマ大統領は5月24~25日の両日、英国を公式訪問した。米大統領が国賓として訪英するのは1952年のエリザベス女王即位以降2度目で、03年11月のブッシュ大統領以来である。オバマ大統領はミシェル夫人とともに、バッキンガム宮殿でエリザベス女王主催の歓迎式典に出席し、米英両国の特別な関係を演出した。
オバマ大統領はキャメロン英首相とも首相官邸で会談し、サミットの議題を事前に擦り合わせた。中東・北アフリカの民主化の後押しやリビアのカダフィ政権への圧力は、サミットの基調となった。
キャメロン首相は、「英米関係は安全保障と繁栄に不可欠」と強調した。安全保障や経済などの課題を扱う定期協議の枠組みをつくることで合意したのも注目される。第二次世界大戦中の41年、米国のルーズベルト大統領と英国のチャーチル首相は会談し、戦後秩序に関する大西洋憲章をうたった。自由と民主主義を基調とした同憲章は、戦後の西側体制の基本となった。
今回の米英合意は、01年から続くテロとの戦いを踏まえた「新たな大西洋憲章」と呼ぶべきものだ。今年1月のチュニジア・ジャスミン革命から始まった中東の民主化ドミノと、5月の米軍によるオサマ・ビン・ラディン殺害。今年に入ってからの一連の出来事を、両首脳はグローバルな外交展開にとっての追い風と捉えているのだろう。
民主化を迫る米国
当面の焦点は中東にある。民主化ドミノを「アラブの春」と呼ぶオバマ大統領。その認識はG8サミットの特別宣言の表題「中東の春」にも反映されたが、オバマ氏は中東の政権交代は「さらにある」との認識を示し、攻勢をかけている。リビアについては最高指導者のカダフィ大佐に退陣を迫り、空爆などで圧力をかけ続ける。イエメンのサレハ大統領には政権移譲を促した。
その一方で、米国の中東外交の足かせになっているイスラエルに対しては、オバマ大統領は67年の第三次中東戦争前の境界線まで引くように求めている。キャメロン首相はパレスチナの境界線の見直しにも踏み込んだオバマ提案を「大胆で先見の明がある」と持ち上げてみせた。一連の動きはオバマ大統領の再選戦略と密接に絡んでいる。