2024年11月25日(月)

ヒットメーカーの舞台裏

2011年6月28日

 10種類ほどの試作を行ったが、できた泡が細か過ぎて注ぎ口が詰まってしまうというトラブルもあった。社員や取引先関係者、さらに前田の知人などを含む幅広いモニタリングの結果、シャフトから枝状に計12本の羽根を付けたかく拌機の形状や、毎分1万回以上という回転数が決まっていった。

 前田はアドバイスを受けていたビールメーカーの担当者に、自信をもって試作機を持ち込んだ。しかし、「カニ泡が出ていますね」と、評価は予想外に厳しいものだった。カニ泡とは、カニが吹くシャボンのような泡のことで、もっちりした泡の対極にある。すでに11年1月の商品発表を終えた後のことだった。「ツメが甘かった」─前田は落胆と焦燥の想いで帰途についた。

目先にとらわれず息の長い商品を

 だが、会社に着くころには発売日を遅らせても改良しようと決めていた。開発に着手した時の方針である「より本格的なものを」という決意を改めて思い起こした。このまま妥協すれば「『なんちゃって』の時から踏み出すことはできない」とも考えた。早速、羽根の改良に取り掛かった。量産準備直前だったものの、開発部門も協力してくれた。

 発売は当初案より約1カ月遅れの5月となり、花見シーズンには間に合わなかった。しかし、結果的には「目先のひと月より、息長く評価していただける製品づくりができた」と、納得している。商品企画の主担当となったのは08年からと経験は浅いのだが、冷静な判断力も身についてきた。

 クッキングトイの面白さは「日ごろ、お客様がチャレンジしようと思ってもできないことを、われわれがハードルを下げて差し上げることができる」ところだという。同社がこれまで手掛けてきた、そば打ち機や生キャラメルメーカーなどがそうだ。

 同時に前田は、「本格的で求めやすい価格」にもこだわらないと、消費者には受け入れられないと考えている。ビールアワーも希望小売価格が1995円と、3000円台半ばだったかつてのレッツビアーより大幅に安くした。

 これからの目標は、クッキングトイにこだわらず「同世代の女性が買い求めたくなる商品」を「アイデア段階から主体的」に創り出すことだという。恐らく、前田自身の感性が大いに試される領域となる。それが企画担当者として次に破るべきカラだと分かっているのだろう。(敬称略)


■メイキング オブ ヒットメーカー 前田菜々(まえだ・なな)さん
タカラトミーアーツぬいぐるみライフ事業本部マーケティング課主任

前田菜々さん  (写真:井上智幸)

1981年生まれ
横浜市に生まれる。転校が多かったこともあり、周囲の人との関係を築くことが得意になった。
1990年(9歳)
小学4年生の時、転勤でマレーシアに。高校からはインターナショナルスクールに通い、世界各国の人たちと共に学んだ。部活ではテニス部のキャプテンも務めた。
2000年(18歳)
日本に戻り大学に入学。子どもが好きだったこともあり、児童心理学を専攻した。その中で、子どもの時期が成長にとって大切だということを学んだ。
2005年(23歳)
旧トミーに入社。1年の営業研修を経て現在の部署に。はじめて担当したのが、スイーツをかたどったアクセサリーを作るためのキット「DECOTTI」。実際のスイーツアクセサリーを買うよりも安く、それでも質では劣らないものを作るように心がけた。
2011年(29歳)
これから挑戦してみたいのは、おもちゃならではの楽しさを付加しつつ、本物志向にこだわることで同世代の女性に「買いたい」と思ってもらえるような商品を作りたいと考えている。

 

◆WEDGE2011年7月号より

 

 

 

 


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