2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年10月11日

  今般の首脳会談で決まったことは、TAGという新たな協定への交渉を開始し、その交渉をしている間は、報復関税のようなことは慎むということである。この構図は、7月の米国とEUとの間の合意を想起させる。米=EU合意も、「大掛かりな貿易協定の交渉」(関税ゼロ、非関税障壁ゼロ、自動車産業以外の製品への補助金ゼロを目指す)で双方が合意し、交渉期間中は関税戦争をしないとする内容であった。米国からのLNGの輸入を拡大することで合意した点も、日米、米欧で共通している。

 新たな交渉を開始するということでトランプのメンツが立ち、中間選挙に向けたアピールができた一方、日本側としても、受け入れることのできないFTAではなくサービス貿易や投資などを除いたTAGに落ち着いたこと、また、農産品の関税についてはTPPで合意済みの水準を限度(上記共同声明中「日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場 アクセスの譲許内容が最大限」とある)とすることができた。なお、トランプが貿易赤字について言及する際はreciprocal(相互主義的な)という語を使うのが常であるが、共同声明ではmutually beneficial(互恵的な)という語を使っている。まだ楽観視はできないが、態度の軟化を示しているかもしれない。

 通商をめぐるトランプ政権の大きな立場は、次第に明確になりつつあるように思われる。米国は、日欧とは全面衝突を回避し、NAFTA見直しをめぐってもメキシコに続いて9月30日にカナダとの間でも合意した。今や、大きな経済ブロックで、米国と真正面から衝突しているのは中国だけと言える。米国は「経済戦争」の対象を中国に絞ったと見てよいのであろう。上記共同声明の第6パラグラフは、非市場志向型の政策や慣行、知的財産の収奪、強制的技術移転、補助金等を挙げているが、当然これは中国が念頭にあるものと思われる。ルールに基づいて中国の不当な行為を正していくのが本来あるべき姿である。しかし、そうではなく、むき出しのパワーの衝突という形で、通商分野においても米中対立が進む可能性がある。世界は、その余波を受ける覚悟をする必要があるのかもしれない。

  
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