2024年12月7日(土)

解体 ロシア外交

2011年7月28日

 しかし、アルメニア政府は、福島原発事故の原因を津波であるとしたうえで、アルメニアには津波の危険性がないとして原発計画の続行を宣言している。アルメニアは再生可能エネルギー開発などにも取り組んできたが、すべて失敗してきた。メツァモール原発を存続させながら、早期に新規の原発建設を進める以外の方法はないのかもしれない。

原発停止に国民が大反対したリトアニア

 旧ソ連構成諸国であり、現在はEU加盟国であるリトアニアには、ヴィサギナスに150万kWの黒鉛減速軽水冷却チャネル型炉(RBMK-1500)のイグナリナ原発があった。同原発は、1983年に1号機が稼働開始、86年に2号機が完成したが、チェルノブイリ原発事故の影響で運転開始は1年延期され、3号機の建設も延期されたが、結局89年に建設計画の中止が決定したという経緯がある。

 だが、同原発はチェルノブイリ原発とほぼ同型であったため、欧米から閉鎖要求が強まり、EUとの加盟交渉により1号機は2004年末、2号機は09年末に稼動を停止した。なお、EUは2013年まで原子炉を廃炉にするための費用や補償のための資金援助を行うことを約束した。

 リトアニアは原発停止前には、国内の電力需要の80%を原発に依存していた。そのため、原発の操業停止については、国民の激しい反対もあった。その主たる理由は、(1)周辺国に電力を輸出していたため、貴重な外貨獲得手段を失うことになる、(2)発電所が地元の経済を支えていた、(3)化石燃料の輸入によりロシアへの依存度が高まる、(4)電気料金の高騰、というものだ。そして原発停止が同国のEU加盟の条件となったため、同国では原発閉鎖を問う国民投票が2008年10月に行われた。実は、投票者のおよそ9割は原発の操業続行を支持したが、国民投票自体は投票率が50%を下回ったために無効になり、原発が閉鎖されるに至ったのである。

 だが、住民が危惧したように、原発停止後の電力価格の高騰は国民生活を大いに苦しめることになった。そこで、イグナリナ原発と同じ場所に新たに「ヴィサギナス原発」を新設すべきだという議論が1990年代から2000年代にかけて起こり、2007年6月28日、リトアニア議会は新原発建設のための新法を成立させ、建設が決まった。同建設計画は、同原発からの電力供給を受けたい国々が参加する共同プロジェクトとして進んでいる。ヴィサギナス原子力発電所共同建設プロジェクトの総工費は約64億ユーロであり、その出資比率は立地国であるリトアニアが34%、エストニア、ラトビア、ポーランドが各22%とし、各国が出資比率に応じて電力供給を受けることとなっている。同原発は、2018~20年の運転開始が目指されており、建設費は40~60億ユーロ程度とみられる。

原発新設 日立が受注内定

 そこでヴィサギナス原子力発電所新設案件の争奪戦が生じることとなった。実は、日本企業もその応札に関して今年の6月に積極的な動きを見せていた。

 まず、6月16日には、日立製作所の中西宏明社長がリトアニアを訪問してアンドリウス・クビリウス首相と会談し、日立GEニュークリア・エナジー社(日立と米国GE=ゼネラル・エレクトリック社の合弁会社)が1,300メガワット級改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)2基の建設を提案したのである。このタイプの原発は第三世代の原子炉で、日本で実績があるが、福島原発事故の経験から、代替電源の確保など安全性を強化したことを力説していた。

 次いで6月23日に東芝傘下の原子力発電プラント大手米ウェスチングハウスの欧州・中東・アフリカ部門のアンダース・ジャクソン社長がクビリウス首相と会談し、1,154メガワットの「第三世代プラス」の最新鋭原子炉「AP1000」2基を建設する計画を説明した。なお、東芝の五十嵐安治専務・電力システム社社長も同席していた。

 リトアニア側は7月中に炉型を選定するとしていたが、7月14日に日立製作所がヴィサギナス原発の建設計画の受注に向けた優先交渉権を獲得したことを発表した。これは福島原発事故以来、日本の原発関連企業が内定ながら受注を取り付けた最初の事例となり、日立側は年内に正式な契約にこぎつけたいとしている。

(後編へ続く)


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