安保激変

2018年10月24日

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村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

西太平洋地域に米国の中距離ミサイル配備、5つの役割

 その上で、米国の中距離ミサイルを西太平洋地域のどこかに配備することの主な狙いと課題を整理してみよう。まず、想定される役割としては以下の5つが挙げられる。

(1)戦力投射能力の最適混合化

 現在、西太平洋地域における米軍の主な戦力投射能力には、航空基地を基盤とする戦術航空機、戦略爆撃機、空母とその艦載機、水上艦、潜水艦などがあるが、対地攻撃に用いる長距離ミサイルの搭載量は(オハイオ級巡航ミサイル原潜を除けば)限定的である。例えば、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦でさえ、トマホークを1隻あたりおよそ30~40発程度しか搭載することができない。またこれらのミサイルは空中はもとより、洋上での再装填ができないため、一度ミサイルを撃ちきった航空機や艦艇は基地や母港に戻って補給しなければならなくなる。その点、通常弾頭の中距離ミサイルをグアムや日本、豪州北部に配備して他のアセットが担っていた攻撃任務を担うことができれば、航空機や艦艇を対水上戦や対潜水艦戦、ミサイル防衛といった他の任務に割り当てられるという利点がある。

(2)中国内陸部へのコスト賦課

 地上配備の中距離ミサイルを中国の内陸部を攻撃できる地点に予め配備しておけば、B-2ステルス爆撃機などの高額なアセットを防空網に侵入させるといったリスクを冒さなくとも、恒常的に中国を牽制でき、更にそれらに対処するために防空システム等への追加的投資を強いることができるかもしれない。

(3)分散化された航空基地に対する制圧能力の補完

 相手が日本やグアムなどに数カ所しかない我が方の航空基地を中距離ミサイルで脅かしうるのに対抗して、こちら側からも遠距離から中国の航空基地や関連インフラを攻撃しうる手段を多様化することで、有事における相手の航空戦力を弱体化させるということも考えられる。

(4)海上封鎖能力の補完

 米軍の陸上部隊と中距離地対艦ミサイルを組み合わせ、軍事的緊張が高まった場合に島嶼部などへの迅速な機動展開を行い、バシー海峡等のチョークポイントを封鎖できる状況を作り出し、中国海軍の艦艇を牽制するという使い方もある。

(5)同盟国・パートナー国への安心供与

 かつて80年代に米=NATO間で行われたように、米国の中距離ミサイルを日本などの同盟国に配備することによって、米国の防衛・拡大抑止コミットメントを保証する安心供与としての役割が考えられる。これは中国を対象とする場合のみならず、北朝鮮を対象にする場合にも同様のことが言えるだろう。

課題・デメリットは?

 以上が、西太平洋地域に前方配備される米国の中距離ミサイルに見出しうる主な役割・メリットである。いずれも納得できるものではあるが、課題やデメリットについても精査する必要がある。それらをまとめると以下のような懸念が考えられる。

(1)地上発射型ミサイルである必然性

 最も根本的な主張は、これらの狙いの殆どは、条約に抵触しない空中発射型ないし海洋発射型ミサイルで代替できるというものだ。実際上記の狙いは、すべて既存の能力を補完することを念頭においており、地上発射型ミサイルでなければ達成できないわけではない。

(2)地上発射型ミサイルであるがゆえの脆弱性

 地上に配備されるミサイルは、航空機や艦艇に搭載されるミサイルよりも、敵の攻撃に対して脆弱である。米国が新たに開発する中距離ミサイルはいずれも路上移動式を前提としているが、広大な戦略的縦深を有するロシアや中国、あるいは欧州の戦略環境と異なり、グアムや日本、東南アジアの島嶼国はいずれも縦深性に乏しく、移動式による恩恵を受けにくい。また地上配備の場合、弾薬庫を併設すれば、航空機や艦艇よりも容易に補給が可能との見方もあるが、攻撃を避けるために予めミサイルの移動発射台を分散・秘匿しようとすれば、その分、兵站上の制約が生じて弾薬庫や補給車両を近くに置く恩恵は受けられない。逆に、補給の利便性を考慮して、移動発射台を弾薬庫近くに展開しようとすると、今度は固定式ミサイルと大して変わらなくなり、配備基地ごと先制攻撃によって撃破される恐れがある。

(3)巡航ミサイルか、弾道ミサイルか/核か、非核か

 相手に対してコスト賦課を強いたり、抑止を成立させる場合、配備された兵器システムが実際に使用された場合の軍事的効果、すなわち作戦遂行においてこちらに優位があり、相手が劣勢になることがある程度はっきりしている必要がある。となれば、配備する中距離ミサイルが巡航ミサイルであるか、弾道ミサイルであるか、それに搭載する弾頭が核弾頭であるか、通常弾頭であるかの差はかなり大きい。

 まず航空基地を機能不全に陥れることを目的とする場合、通常弾頭の巡航ミサイルであれば、その効果はかなり限定される。2017年4月6日に米軍がシリアのシャイラート航空基地に対して行った攻撃では59発のトマホークが使用されたが、シャイラート基地はわずか2日後には運用を再開している。したがって、通常弾頭で航空基地機能をある程度低減させることを試みる場合、弾道ミサイルを用いて滑走路などを攻撃する方が効果的である。

 これは中国がDF-21等を用いて嘉手納基地などを想定した攻撃訓練を実施していることからも読み取れる。ただし、中国の分散化された航空基地ネットワークは40箇所以上に及び、これらに有効な打撃を与えるためには600発以上の弾道ミサイルが必要になると見積もられている。これだけの大量の弾道ミサイルと、ある程度の同時発射を可能とする移動発射台を予め前方展開させておくのは、政治的にも運用コスト上も難しい。となれば、航空基地を効率的に打撃する方法は低出力核を用いることだが、これは政治的に正当化しにくい上、非核三原則を有する日本でなくとも配備先の反発を招くだろう。なおかつ、そうした運用方法はNPR2018で言及された低出力トライデントや核SLCM、LRSOなどで達成できるから、地上配備の中距離核である必然性はない。

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