2024年4月19日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2018年11月1日

――レイプなども含む、性犯罪刑法が昨年夏に110年ぶりに改正されました。今回の改正については、どう評価されますか?

小川:主な改正点は、強姦が強制性交と名称が変わり、これまでは「強制わいせつ」だった口腔性交や肛門性交の強要も「強制性交等罪(旧強姦罪)」になりました。懲役の下限が3年から5年に引き上げとなり、またこれまでの親告罪から非親告罪に。ただ、国連からも指摘されていた性交同意年齢(※)が13歳であることなどについては、さまざまな議論がかわされましたが、結局変わりませんでした。改正自体は大きなことですが、実は9つあった論点のうち3.5個しか改正が実現していません。改正には附帯決議がつき、さらなる改正が必要なのかどうかが、まさに今検討されています。

(※)性交がどういうものかを理解し、自分の意志で性交に同意することができるとされる年齢。

――性交同意年齢の13歳は他国と比べて低いのでしょうか?

小川:他の先進国に比べると低いですね。アメリカは、州にもよりますが、16~18歳、イギリスは14~18歳まで段階的に基準が設けられています。先進国では、日本と韓国のみが13歳です。両国の子どもたちだけが、飛び抜けて成長が早いとは思えません。

――被害者支援団体は、具体的にはどんな改正を望んでいたのですか?

小川:被害者団体や支援団体はたくさんあるので、みんなが全く同じ改正を求めているわけではないかもしれません。ただ、暴行脅迫要件の撤廃もしくは緩和や、性交同意年齢の引き上げについては、おおむね意見がそろっているのではないかと思います。イギリスやフランスなど欧州の10カ国では不同意性交がレイプの基準になっています。そちらの方向を目指している。

 また、結婚できる年齢や少年法の適用される年齢は広く知られていても、性交同意年齢が13歳に定められていることについては知らない人の方が多いです。知れば「おかしい」と感じる人もいると思うので、まず知ってもらって世論に問うことが必要かなと思います。

――強制性交等罪にはもちろん恋人間や夫婦間も含まれるわけですね。

小川:改正の際も、配偶者間でのレイプもレイプであるという一文を加えてほしいという要望もありましたが見送られました。内閣府の調査でも夫婦間や恋人間でのレイプが多いことはわかっていますが、警察へ相談できないケースが多い。一文が加えられることで表面化する被害は多いのではないかと考えます。

――なぜ、採用されなかったのでしょうか?

小川:これまでにも夫婦間のレイプで立件されているケースがあるから、今の刑法のままでも夫婦間のレイプを訴えられるという説明です。実際に、たとえば夫が友人男性と共謀して妻をレイプした事件があります。ただ、たとえば寝室で、夫から妻もしくは妻から夫へのレイプが立件されたケースを私は知りません。妻が避妊を望んでいるのに、夫が避妊をせずに無理やり性交をして妊娠してしまったというような事例でも、今の「常識」では警察へ行く発想をする人は少ないのかもしれません。けれど明確な暴力だと思います。

――最後に、本書のもととなったブログを書きはじめ2年が経ち、性犯罪刑法も改正されました。この2年間で変化したこととは?

小川:ジェンダーに関する世の中の議論は少し変わったと思いますね。性犯罪刑法の改正もありますが、「#metoo」のことも頻繁にニュースに取り上げられました。

 今年に入っても、元財務省事務次官のセクハラや東京医科大学の女性差別など、次々と「膿」が出始めています。大学で教えている方が、「東京医科大の件で、ジェンダーの問題に関して学生の反応が変わった」と仰っていました。受験は学生にとって身近な問題だったからと。女性差別や性暴力の問題は、ないことにされやすい、隠されてきた問題です。そのことに気づく人が増えるだけでも、変化はあると思います。

 意外ですが、本書を「読んで良かった」と言ってくださるのは男性が多いです。女性よりも男性が読んだほうが、発見が多いみたいです。「性暴力」と聞くとちょっとこわいし、自分には関係ないと思っている人にこそ手にとってもらえるとうれしいです。
 

  
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