Wedge REPORT

2018年12月3日

»著者プロフィール
閉じる

出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

 彼女の実家を含め、村の農家の収入は月2万円程度にすぎない。農業以外の仕事も少なく、貧困から抜け出すことは難しい。ベトナム経済は成長しているが、恩恵は田舎まで届いていないのだ。そのため若者たちが「ジャパニーズ・ドリーム」の甘い夢を見てしまう。

フエさんの村の風景

 今年秋にはまた1人、近所に住む親戚の女性が日本へと〝留学〟する。先に留学生として日本に行き、現在は不法就労中の夫を追ってのことだ。女性は高卒で、実家の農家を手伝っていた。

 以前、2人が新婚生活を送っていた家を訪ねた。夫の両親の家と同じ敷地内に建つ、コンクリート造りの粗末な小屋である。中は6畳ほどの一間で、簡単な台所とベッドが置かれている。壁に飾られた結婚式の写真の片隅には、女性の拙(つたな)いカナ文字で「しゃしん」と書かれてあった。

 「日本でがんばって成功してほしいです」

 静かな口調でそう話す夫の母親を前に、筆者は日本で不法滞在者となっている息子について尋ねることができなかった。

 ベトナムから来日する留学生は、最近ではこうした地方出身者が中心を占める。ブローカーが田舎町にまで日本語学校を設立し、留学希望者を集めているからだ。一方、ハノイやホーチミンのような都会では、賃金は日本より低いが仕事はある。年収の10倍近い借金までして〝留学〟しようとする若者は少ない。東京都内の日本語学校で働くベトナム人職員が言う。

 「私の学校では今年10月、20人以上のベトナム人が入学しましたが、ハノイとホーチミン出身者は3~4人だけ。留学生は田舎の出身で、学歴もなく、ベトナムで仕事にあぶれた若者が多い。レベルもどんどん下がっています」

止まない「出稼ぎブーム」

 日本への「出稼ぎブーム」は収まる気配がない。現地取材の前には、ベトナム人の出稼ぎ先として「韓国」が人気になりつつあるという声も聞いていた。韓国の「雇用許可制」のもとでは、日本への〝留学〟とは違い、大きな借金を背負わず出稼ぎに行ける。肝心の賃金も日本と大差ない。しかし出稼ぎを斡旋する現地業者は、「韓国よりも日本が人気」と口を揃(そろ)える。

 「日本に留学すれば、ベトナムに帰国した後、日系企業で働けるチャンスが広がる」(ハノイの斡旋業者幹部)

 そんな現実的な理由もある。だが、何よりも、日本という国の「ブランド」が韓国の比ではないのだ。

関連記事

新着記事

»もっと見る