2024年4月19日(金)

栖来ひかりが綴る「日本人に伝えたい台湾のリアル」

2018年11月30日

「同性婚」をめぐる5つの投票項目

 選挙結果については、各新聞や専門の方々から詳細な分析が行われているので、この文章では選挙と同時に行われた公民投票、そして特に筆者や筆者の周囲が最も注目していた「同性婚」の立法に関する提議5項目について記したいとおもう。

 まず10項目にも及ぶ公民投票案はいかなる内容で、どういった投票結果となったかを簡単に説明すると、野党・国民党などから提出された近年の大気汚染や食品安全の問題に関する4つの提議は以下の通り。(資料:中央選挙委員会

第7案 火力発電所を減らす
第8案 火力発電所の新しい建設に反対する
第9案 脱原発法を廃止する
第15案 日本の福島を含む近郊5県からの食品輸入禁止の継続

 この4つは全て同意多数で通過した。また、2020年の東京オリンピックで台湾がこれまでの「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「台湾/TAIWAN」という正式名称で参加するという提議(第13案)については、出場停止などのリスクを恐れた運動選手たちの「不同意」への呼びかけも選挙前に行われ、10%の差で未通過となった。

 台湾では、2017年5月に「同性婚を認めないのは違憲」とする台湾の大法官の憲法解釈が出された。東アジアで初めて「同性婚」が法的に認められた台湾社会は、その先進性を国際的に大いにアピールしたものの、これに異を唱えたのが主にキリスト教系団体によって構成された「下一代幸福連盟」である。

 下一代幸福連盟によって提出された公投案は以下の3つ。

第10案 婚姻の提議…民法による婚姻の組み合わせは、一男一女に限る
第11案 義務教育(小学校及び中学校)においてLGBTについての教育を行わない
第12案 民法の規定以外に特別法を制定し、同性同士のパートナーシップ権益を守る

 今回の公民投票は、この3つ全てにおいて「同意」票が「不同意」を大きく上回り通過した。クセモノなのは、この「第12案」である。これは、本来ならば憲法解釈から2年後にあたる2019年の5月以降は自動的に、民法によって「婚姻の自由とその権利」が同性同士にも平等に適用される予定を、特別法の制定によってなし崩しにしようというものだ。結婚に関する法律で一番強力なのが民法であるため、子供の養育や遺産相続について問題が起こった場合、特別法の内容如何によっては当事者の権利が必ずしも平等に行使されるとは限らなくなってしまう。

 ゲイの当事者である知人のひとりは、セクシャリティーのために中学校の時に受けた強烈なイジメ体験を思い出したことをSNS上で吐露していた。また公民投票が行われる前後で、反対派の家族の無理解に絶望し、自殺を図ったLGBTの若者が幾人もいるという話も耳にした。

 一方で、同性婚反対派に対抗する形でLGBT人権団体より提出されたのは以下の2つ。

第14案 民法により、性別にかかわらず婚姻関係を保証する
第15案 義務教育の各段階に見合ったジェンダー・LGBT・性教育を実施する

 この2案については、340万前後の同意票を700万弱の不同意票が上回った。つまり今回の公民投票は、現・蔡英文政権がこの2年のあいだに進めてきた「脱原発」「婚姻平等」「独立主権」というリベラル的な方向性すべてに「NO」を突き付ける結果となった。


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