台湾社会が抱える矛盾とほころび
台湾社会は外国人からすると一見、とても進歩的かつ開放的に見えるが、特に家庭観念に関しては驚くほど頑迷で保守的なところがある。台湾の民主化運動を長年支えてきたキリスト教プロテスタントの長老派教会はグリーン陣営(=与党・民進党の支持層)を構成するメインのひとつだが、そうしたキリスト教系団体等の資金力を背景として行われた強力な同性婚へのネガティブキャンペーンは、選挙前のテレビ番組やCM・SNSを通じて多くの台湾人を巻き込んだとみられる。
筆者の参加しているLINEグループにもグリーン陣営の年配の知人から公民投票で、「反同性婚」「反LGBT教育」「オリンピック正名推進」に同意するようにという内容が選挙前に流れてきた。これは公民投票の数字にも表れており、オリンピック正名参加を問うた第13案については476万の同意票が集まったにも拘らず、同性婚に同意したのは338万票だった。
つまり、この差140万人は少なくとも、国際的にマイノリティーである台湾の在り方に不公平を唱えながらも、台湾社会のなかのマイノリティーに対する不公平については疑問を感じていないことになる。今回の公民投票で明らかにされたのは、台湾の主権・伝統的価値観・経済発展への展望をめぐって台湾社会が抱える矛盾やほころびであった。
もうひとつ問題なのは、反対派が提出した第10/11/12案が公投に掛けられた、それ自体が違憲行為であることだ。大法官の憲法解釈では、世界精神医学会(※)やWHO(※)などの立場表明にもとづいて、セクシャルマイノリティ―が異性愛者と同じく結婚についても平等の権利を擁することを示している。
「公民投票」という多数の力に拠って、憲法で守られたマイノリティーの人権を奪うことは民主主義のはき違えであり、憲法のもとに構成された「立憲民主制」を採択している台湾の価値を大きく損なう。これについては、こうした提案を認めた現・蔡政権の問題でもあり、今後の公民投票において、また特別法の制定の際にも、よくよく吟味される必要があるだろう。