団地で分かった農業の副次効果
「新しい農業」を目指す中で、大きな発見となったのが、福岡県宗像市のUR住宅「日の里団地」での『トレファーム』の導入だ。「団地の農場・日の里ファーム」は、農業を通じて、高齢者から子育て世代、そして若者までコミュニティ作りを進めるというもの。2016年4月のことだ。日の里地域の住民であれば誰でも参加できるというコンセプトにしたことで、団地住民間の交流は自然に増えていったという。また、脳梗塞になった高齢者のリハビリにも役立つといった効果もあった。そして、育てた野菜は、団地内で朝市を開催し直売したり、地元の小学校の給食でも使われたりしている。日の里ファームがあるから日の里団地に引っ越したというケースも複数出てきている。
『トレファーム』によって、こうした農業の副次的な効果が分かるようになってきた。そんな時『トレファーム』を活用した「日の里団地」での取り組みがニュースとなり、人づてに伸こう福祉会の関係者に知らされた。
「施設に入ると長生きされるケースが多いのですが、そうすると経済的な不安を感じられる人が出てきます。ちょっとした収入があれば、より安心した生活をすることができるということで、何かよい方法はないかと考えていました」(伸こう福祉会広報担当の荒川多恵子さん)
「『日の里団地』の次の展開を考えていたところでした」(東レ建設トレファーム事業推進室次長の内田佐和さん)
求めていた者同士の出会いが生まれたわけだ。
出会ってからは、トントン拍子で実施に向けて作業が進んでいった。2017年6月に出会い、10月には経済産業省の「健康寿命延伸産業創出推進事業」に採択され、12月には野菜の栽培を開始。要支援から要介護3の高齢者の方が栽培し、収穫した野菜(ルッコラ、フリルアイスなど)は、地元にあるイオン藤沢店で2回、直売会をした他、施設でも販売した。販売用の野菜には、藤沢市の協力を得て「藤沢産」のシールを貼った。
「仕事」として取り組んでいただいた高齢者15人(入居者約80人の内数)について、作業の前後で各種ヒアリングや計測を実施した結果、コミュニケーションの質と量が大きく増えるといった効果に加えて、高齢者の家族からも「活力が出てきた」などと、喜びの声をいただいている。トレファームを用いた農業は、ADLに関わらず参加可能なことから、多くの高齢者に取り組んでいただきやすい。
2018年も「健康寿命延伸産業創出推進事業」に採択され、第2期として10月から栽培を始めている。今回は、直売だけではなく、地元の農家レストランに卸すことや、大手食品メーカーの『カゴメ』とも提携して、介護、野菜、健康をキーワードにしたセミナープログラムを開発し、高齢者の方にも支援をいただきながら開催を計画されている。
こうした取り組みをしていくことで、単なる高齢者施設ではなく、「地域の人々が集う拠点にすることができる」と、伸こう福祉会の荒川さん、東レ建設の内田さんは口をそろえる。農業と高齢者施設は、まさに時代が産んだ「出会い」と言えそうだ。そしてこの出会いによって、新しい地域の拠点が築かれていこうとしている。
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