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2018年12月3日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

領土問題解決に多くの選択肢

 首相が示唆した「2島返還」のほか北方領土の返還をめぐって、いくつかの解決方法、アイデアが取りざたされているが、ここで整理をしておきたい。

 おおざっぱに4通りに大別されよう。(1)4島返還(2)2島先行返還(3)2島返還プラス・アルファ(4)2島だけ返還―だ。

 「4島返還」は日本政府が従来、堅持してきた基本方針。日ソ共同宣言本文に国後、択捉の2島の名を盛り込むことは見送られたが、宣言に付随する松本俊一、グロムイコ両全権(いずれも当時)の往復書簡で、ソ連側は「領土問題を含む平和条約締結交渉を外交関係の再開後に継続する」と同意している。日本政府はこれを根拠に、歯舞、色丹の引き渡しだけでなく国後、択捉の返還も要求しつづけてきた。日本にとって本来、譲れない原理原則だ。

 (2)の「2島先行返還」は、共同宣言にある歯舞、色丹の引き渡しをとりあえず実現、その後、国後、択捉の返還交渉を継続するという考え方。日本国内でも、国民民主党などが主張している。4島返還要求をあきらめず継続するという意図が込められているが、いったん2島が返還されてしまった後、ロシアがさらに国後、択捉の返還に応じるか。クリミア併合など「力による現状変更」をいとわないプーチン大統領が「2島」で幕引きをはかってくるのは明白で、かりに交渉を継続したとしても従来以上に困難だろう。

 「2島プラス・アルファ」には2島返還と国後、択捉での共同経済活動を組み合わせ、日本側が経済での〝実利〟を得るという思惑が込められている。国後、択捉の主権を断念しても膠着状態を打開すべきという思い切った譲歩案だ。(4)の「2島だけで決着」という構想は、歯舞、色丹だけの引き渡しにとどまるという日本にとって最悪のケースであり、国内からは公然とは聞こえてこないが、「2島先行返還」をめざした場合、結果的にこの「2島返還」、それだけでで終わってしまう可能性は大いにあるだろう。

 4島の面積を2等分して折半するという不可解な構想を過去に日本の有力政治家が公言、いまでも時折、口端にのぼることがあるが、さすがに今回は議論になっていないようだ。

首相の意向は「2島プラス・アルファ」

 安倍首相の意向は「2島プラス・アルファ」にあるようだ。首相はちょうど2年前の2016年12月、地元、山口・長門で行ったプーチン氏との会談で、北方4島で、農漁業、電力開発、環境対策など8項目の事業を共同で推進していくことを提案、合意した。

 そうした経緯に加え最近の首相の発言、「私たちの主張をしていればすむことではない」「それで70年間変わらなかった」「終止符を打ちたい」―などを考え合わせると、その意図を察するのは容易だ。
 
 首相は国会でも「領土問題を解決して平和条約を締結する方針に変わりはない」と説明、方針変更を公式には認めていない。しかし首相は、外務省発行の文書に明記された政府見解「ロシアによる不法占拠」という事実を確認するよう国会で求められても、あいまいな答弁で言を左右にするだけだ。「外交上の手の内を明かすことは避ける」ということらしいが、こうした姿勢からも「4島断念」という首相の意図がうかがえる。

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