おおた:おっしゃること、よくわかります。でもそれ、僕は決して笑えない。僕もあのまま就職した会社にいたら、自分を組織に最適化させることに必死だった可能性は十分にあります。たまたま別の道を選んだから、視野がちょっと広がりましたけども。そして、もちろん組織にいる以上は、いつも個を最優先させるというのでは組織にいるメリットが得られませんしね。
小川:おっしゃる通りですね。ただ、特に男親には、会社組織という文化や価値観が色濃く影響及ぼしがちなのかもしれません。だとすると、それが子育てにも反映しますね。そう考えたら、親として一本立っていくための、親御さんたちへの勇気づけやコミュニケーションの場って必要なんだろうと思います。自分がどんな人間で、どんな親で、日々どんなことを考えていて、どんなことに幸せを感じていて、どんなことに悩んでいるのかを言葉にできたり、誰かに聞いてもらえたりするような場。本当は、企業の中にそういう場を持てたら最高なんですけどね。
誰にも「マネージャー型お父さん」になるリスクが!?
おおた:『親も子もハッピーになる最強の子育て』に、お父さんは家の中で、組織でいうマネージャー的なポジションに座りがちだということが書かれていましたね。子どもに対してすぐ「○○してみたらどう?」とアドバイスをしたり、普段は妻任せなのに意思決定の場面にだけ出てきて「こうしなよ」と指示したりする。つまり、家庭で上司風を吹かせている、と。あの部分を読んで、僕もやっているかもと思いヒヤッとしました。いざというときに一瞬、そういう自分が顔を出すことがあるんですよね。
小川:「マネージャー型お父さん」というやつですね。あれは、以前の僕のことです。自分を例にして、当時の妻のつらさを表現しているんです。
おおた:そうだったんですか。
小川:結局のところ、男は社会的な機能を果たそうとしてがんばってしまうのかもしれませんね。家族を幸せにしたいと願うからこそ、自分を証明するものを家族に求めてしまうというところもある。わが家の場合、子どもの勉強に関しては僕がイニシアティブを取っていたので、なおさらマネージャー型になってしまいがちでした。でも、それが切り換わった時期があったんです。息子が4、5歳の頃、「ママが1番で、ずっーと下がって“おとう”(お父さん)が2番」と言い出したんです。あ~、そうなんや~と(笑)。
おおた:父親としては、ちょっとショックでもありますよね。
小川:でも、僕は息子の言葉を聞いて、そりゃあそうだなと思ったし、それでいいんだとわかりました。子どもは何と言っても母親が一番好きですから。だから、父親がマネージャーポジションに座っていては、家族をチームとしてうまくまわしていけないと気づくことで、変われる人は多いでしょう。これって、大きなポイントだと思います。
おおた:そう言えば、僕も息子が幼稚園のときに忘れられないことがありました。仕事部屋に息子が入ってきて、いつまでたっても出て行ってくれないんです。こっちは執筆でテンパッているのに、遊んでほしくてまとわりつくんですね。それでつい、「パパは忙しいんだよ!」と怒鳴ってしまった。しばらくしたら、ドアの下の隙間から1枚の画用紙がスーッと差し込まれ、見ると「お仕事がんばれ、パソコンがんばれ」と書いてあったんです。それを見てたまらなくなりましたね。これはいかんと。その画用紙は、今も仕事部屋に貼ってあります。
小川:子どものひと言って、刺さりますよね。うちもその一件の後、妻はそれまで自分のことを「ちゃんとできていないママ」だと卑下するような言動をとることがよくありましたが、自信が持てるようになっていったと感じます。夫婦で子どものことを話す機会も増えましたね。
おおた:やはり、子どもに教えられているんですよね。