激変する時代に伴い、これまでの常識や価値観が通用しなくなっているのはどの分野でも多々あることだろう。子育て・教育分野にもその波は押し寄せてきている。共働き家庭も増え、子どもとの向き合い方に頭を悩ませている親御さんも多いのではと思われる。これまでの「常識」に縛られ、がんじがらめになっている親御さんたちに向けて、「もっと自信をもって」と語りかける、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんと、当コラム執筆者の小川大介さん。アップデートすべき子育て・教育の考え方について語ってもらった。
「親」というものに注目しているのが、互いの活動の共通点
小川:おおたさんと初めてお会いしたのは、7年ほど前になりますね。
おおた:教育系の雑誌で塾を紹介する企画があり、僕が小川さんに取材させていただいたんですよね。その頃、小川さんは、中学受験専門のプロ個別指導教室SS-1の主宰を務めておられ、関西から東京へ進出したばかりでした。
小川:あの取材、とても印象に残っています。おおたさんが、育児・教育ジャーナリストとして精力的に取材をされ、次々と書籍を出版されているのは知っていましたが、他にもいろいろな活動をされていることなど、いろいろなお話をさせてもらいました。面白いなぁと思ったのが「パパのための読書会」です。
おおた:お父さんたちと、子育てや教育についてざっくばらんに話せる機会を作りたくて、当時、課題本を読んで意見を交換したあとに一杯飲んで集う会をやっていましたね。
小川:それから、「パパの悩み相談横丁」というオンラインカウンセリングサイト。おおたさんは心理カウンセラーでもあるんですよね。僕が中学受験の現場にいたとき、子どもに勉強を教えるのはもちろんですが、僕としては親御さんをどう導くかということに力を注いでいました。だから、おおたさんのように「親」というものに注目している人がいることがうれしかった。自分と同じような視点を持って活動されている方に、それまでお会いしたことがなかったので。
おおた:視点が似ているなというのは、確かに僕も感じますね。
小川:多分、子どもという存在、教育のあり方、学校の役割、塾の機能といったものの捉え方が似ているというのが、ベースとしてあるんじゃないかなと思います。そこの安心感があるから、おおたさんとは気楽に話せる。だから、もうお酒はやめられたとわかっているのに、しつこく誘うという(笑)。
おおた:世代的なことも関係するのかもしれませんね。小川さんは僕より学年が一つ上だけど、同じ1973年生まれなんですよね。
小川:僕たちの年代って、子育て観が変わるちょうど端境期だと思います。僕らより上の世代は、昭和的思考でずっときている。専業主婦モデルの上に成り立つ子育て観ですね。下の世代になると、共働きを前提とした家庭像や家族像を描いている人が多い気がします。だから、子育ても共有しながらやっていこうという感覚を抱きやすい。僕ら世代はそのはざまで右往左往という感じでしょうか(笑)。
子どもから学べるから、子育てはどんどん楽しくなる
おおた:僕は最初、塾主宰としての小川さんに出会ったので、受験に関するテクニックの体系化や、それを言語化して発信することにおいて、この人の右に出る人はいないと思っていました。そういうイメージのところから、親としての潜在能力に気づかせてあげるようなお仕事に、最近、スタンスが変わりつつありますね。小川さんの『親も子もハッピーになる最強の子育て』(ウェッジ)も、まさに「親」というものに注目した本で、「親が何をしてあげるのかよりも、もっと大切なことがありますよ」というメッセージが込められています。実は私の新刊『中学受験「必笑法」』(中公新書ラクレ)にも似たようなメッセージが込められています。
小川:僕がこの本で伝えたかったのは、「親である自分たちに自信を持って子育てしていこうよ」ということなんです。それがベースにあれば、たとえ共働きで時間に追われていても、毎日の時間の使い方を家族全員で工夫しながら変えていけます。そうすると、子どもは自分で動き出すことができるようになり、早い段階で自立する方向へ進んでいくんです。
おおた:じゃあそのための具体的な関わり方って何? と聞かれると、僕も困ってしまいます。手をかけず放っておけばいいのかというと、それは違う。うまく関わっていくさじ加減が難しいですよね。子育てや勉強の分野では、「何を与えれば子どもは賢くなるのか」という点ばかりに関心が集まりますが、そういう風潮の中、小川さんは「今考えるのはこっちだよ~」と親御さんに新しい方向性を示してあげようとしている。子育ての根っこの部分へアプローチをどんどん深めていって、今の時代だからこそ必要なことをされているな、という気がします。「小川さん、そっちに行くんだ~」って感じで、ウォッチしています。