中東を読み解く

2019年1月1日

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見捨てられたクルド人の選択

 今回の軍撤退決定で最大の敗者はIS壊滅作戦で米国に翻弄された末に切り捨てられたシリアのクルド人だ。米国の説得を受けてシリア民主軍(SDF)の中核として最も厳しい地上戦を主導し、多くの戦死者を出した。だが、トランプ政権は「クルド人を見限った上、トルコのエルドアンに差し出した」(ベイルート筋)。

 クルド人勢力の民兵組織「クルド人民防衛部隊」(YPG)は米軍の支援の下、ISを駆逐してシリア北東部を支配下に置いた。支配地域はシリア全土の3分の1弱に相当するが、これを自国の安全保障上の脅威と見なす隣国のトルコのエルドアン大統領は容認できなかった。

 同大統領は国境に大規模部隊や戦車を集結させ、すぐにでも侵攻すると恫喝する一方、「トランプ大統領と裏取引し、米軍の撤退と引き換えにクルド人の勢力拡大を食い止める“裁量権”を獲得した」(同)。まさに大国のエゴに弄ばれる少数民族の悲劇を感じさせる展開だ。

 だが、クルド人もしたたかだ。この窮地に、トルコと敵対するアサド・シリア政権に庇護を求め、手を結んだのだ。砂漠の風紋のように変化する中東の離合集散を見る思いだが、シリア側の発表によると、シリア政府軍が28日、YPGの招きでクルド人支配下の北部の要衝マンビジュに進駐したという。トルコをけん制する動きに他ならない。

 これに対し、エルドアン大統領は「シリア側の心理作戦」と一蹴している。だが、トルコ軍がシリア領に侵攻する事態になれば、シリア政府軍との交戦の恐れも出てこよう。アサド政権の背後にはロシアとイランの存在があり、米軍が撤退する「力の空白」をめぐってシリア情勢は一段と複雑な様相を呈している。

  
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