日本企業からうつ病などのメンタル不調者を減らしていくために、上司と部下の関係改善以外に必要なことは、①リーダーのビジョン、②人事部改革、③多様性だ。
日本だけではなく、先進国全体で消費社会が成熟している。そこで求められているのが、いまだ持たざる人たちを求めて市場を探すことであったり、世の中にまだないモノやサービスを生み出すイノベーションだ。しかし、このようなある意味でハードルの高い目標が課せられるからこそ、現場が疲弊してしまっているともいえる。そもそも、戦後からバブル期までは、経済が成長していたことから、仕事のし過ぎでうつ病になるのではなく、「過労死」が社会問題となった。
マクロ的にみれば企業としてのビジョン(戦略)を持つ必要もなかった。というのも、米国をベンチマークして、その後ろ姿を追いかければよかったからだ。経営手法や意思決定プロセスがコモディティ化したからこそ、求められるのが独創的な経営者のビジョンだ。
次に人事部の改革だ。マッキンゼーなどで活躍した淡輪敬三氏は「日本の人事部が、異動がメインの仕事だと考えていて、人材開発ができていない」と嘆いていた。実際、人材開発について、コンサル会社に丸投げする大企業の人事部も少なくない。「人材をコストとしてとらえるのではなく、資本と考える」(『ビジネスマンプロ化宣言』かんき出版)ことが必要だと、淡輪氏は著書のなかで記している。
そして「世間には『社員の雇用を守るのが私の使命です』などと公言する企業トップがいます。これはしかし、実は『私は社員の可能性を信頼していません』といっているのに等しいのです。契約の本質は、エンプロイヤビリティ(市場で雇用されうる能力)を高める『場』と『環境』の提供を保証することにあります」と指摘している。
つまり、会社は社員が能力をつけ、磨いていく環境を与える一方で、社員は「成果を出すために全力を尽くす」ことを会社に約束する。「(企業と社員)両者は対等のパートナー関係」となるのだ。こうした考え方に立てば、クラッシャー上司のように一方的に、部下を支配するというやり方がいかに見当違いかということがよくわかる。